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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第十章 魔剣と少女と戦いと
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7

 レアシリヤに対して、宣戦布告をした国はひとまず一つだけである。

 他の国と共闘してこちらに攻めてこようとしていないのは、おそらく他の国の力を借りなくても問題なくその国を潰すことが出来ると思っているのかもしれない。

 産まれたばかりの国など、普通ならそうやって淘汰されていくものである。

 ――あくまでそれは、普通の場所で普通に建国された国なら奪われて終わる。

 でもそのレアシリヤというのは、普通の場所では全くない。

「竜人たちに上空から見てもらったわ。魔物に食い殺されたりも多いみたいね。人との戦争だけを想定してこちらに向かってきているのならば甘いわ」

《まぁな。自然の城塞だからな、此処》

 キレイドアは元々未開の地である。

 幾らレイシアたちがその場を切り開いて生活をしているからといって、他の者たちがその場所にきて安全であるというわけではない。

 重たい鎧を身に纏い、人との戦争を想定してこちらに向かってきているのならば、この土地を攻略するのは難しいものだ。

「まずこの城に辿り着けるものは少なさそうだけど、相手がこちらに歯向かう気がなくなるぐらいに徹底的に心を折るにはどうした方がいいかしらね」

《勝ち続ければいい。幾ら戦力を投じたとしても、この国を亡ぼすことが出来ないとそれを理解すれば、向こうだって諦めるだろう。こちらを潰すことも出来ずにただただ騎士たちだけが死んでいくっていうのならば、そんな無意味なことを続けようとはしないだろう》

「まぁ、それもそうね。私を敵に回すことが得策ではないと、ちゃんと分からせてあげないといけないわ。一人ぐらい逃がして、恐怖心をあおるのもありかも」

《敢えて一人残すのはありかもなぁ》

「よしっ、一旦その作戦で行きましょう」

《おい、すぐに飛び出そうとするな。せめてチュエリーたちには出かけることと作戦を伝えてからにした方がいい》

「はいはい。アキの言うとおりにしてあげるわよ」

 レイシアはこの国の女王という立場である。後ろで大人しく指揮を執ってもいいものだが、彼女は全くそういうつもりはない。寧ろ率先して戦場を駆けようとそう思っている。

 レアシリヤの中の非戦闘要員たちは、彼女がそのように外に飛び出すことに対して全く不安もない様子だった。こちらが他の国から攻められようとしているのにも関わらず全く恐れを感じていない様子は、レイシアという少女を心から信じているからだろう。

(きっとこいつは、もっとこのレアシリヤが大きくなったとしても率先して戦いには行くだろうな。この国のスタンスで続けるのならば少なくとも《聖教会》は一生この国を認めることはないだろうし)

 霧夜はそんなことを考えながら、大人しくレイシアに装備されている。

 彼女はチュエリーに一言、「ちょっと行ってくるわ」と告げると飛び出した。そのキレイドアの深い森の中はすっかり彼女にとって庭のようなものである。

 まだ把握できていない場所もあるが、少なくとも近隣の街からこちらに攻め入ろうとしている者たちがどこからどのように来るかは把握している。足場の悪い道や危険な魔物の生息地は避けてくるだろう。彼女の思う安全ルート。

 そこをのぞけば、すぐに侵略者たちの姿は見えた。

《三十人ぐらいの騎士か》

「先発かしら?」

《さぁ? 竜人たちの報告だと城を囲おうと最初は計画してたんだろ。魔物とかで挫折したっぽいけど。そのあまりじゃね? まだレアシリヤに辿り着く前に多くの者が亡くなったというのは向こうも把握してなさそうだし》

「先手必勝よねぇ。とりあえず一人だけ残してぶっ殺すわよ、アキ」

《ああ》

 城を囲おうと幾つかの騎士の部隊がキレイドアに侵入した。しかし大人数で動くにはこのキレイドアという地は向かない。人数が多ければ多いほど、この地に住まう魔物たちが人の気配に気づく。この地の魔物に慣れている者たちならともかく、そうでなければ対応できずに死んでいくのは自然の定めと言えよう。

 侵略者たちは、この地のことを甘く見ている。そしてこの場所に建国したレイシアのことも。

 だからこそ簡単に侵略し、奪い取れると思っている。

 ――でもそれは、あくまで相手側の希望的観測でしかない。

「死になさい」

 レイシアがひっそりと近づき、とびかかる。

 彼らはレイシアのことに気づいていなかった。突然現れた少女が、五人ほどを目の前で切り殺す。その光景を見てようやく彼らは動き出し、彼女を殺そうととびかかる。

 彼女を殺そうとして避けられ、同士討ちがいくつか起きる。

 血の匂いに引き寄せられたのか、いつの間にか魔物も数匹その場に現れていた。その魔物たちはレイシアにも、騎士たちにも平等に襲い掛かった。

 次々と、騎士たちが死んでいく。

 『魔剣』により魂を喰われたり、生きたまま魔物に貪られたり――そうしているうちに最後の一人になる。

「うわあああああああ」

 叫び声をあげるその一人は、もうきっと正気ではない。

「あんただけは生かして帰してあげる。でも今見たことをちゃんと伝えなさい。私の国に手を出そうとした者の末路をちゃんと理解しなさい」

 レイシアはそれだけ口にすると、持ってきていた縄でその騎士を拘束する。そしてそのままその騎士を引きずって、森の外まで連れていく。そこで縄を外してやれば、騎士は怯えた表情のまま必死に逃げて行った。

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