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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第九章 魔剣と少女と亡国の人々
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26

 結果としてヨームは、人質を捕らえた者の要望を聞かないことを決めた。

 ――それを選択するということは、反乱そのものをやめるということに他ならないから。

 ラインガルが亡んで、十年ほどの間――ずっとヨームたちは元ラインガルの地を取り戻すために戦い続けた。何があったとしてもそこで止まってはならない。

 これまで犠牲になったものたちの思いも含めて、立ち止まるべきではないのである。

「それでこそだわ。この程度で折れるようならどうしようもないもの。でもその決意を称賛して、私がその子を救えるのなら救ってあげるわ」

 レイシアがそう言った本音の裏には、彼女が大人しくしているのに飽きたからというのもある。

「それはありがたいことですが……大丈夫でしょうか。レイシアさんを失うわけにはいきません。私としてもレイシアさんが死ぬことだけは嫌です」

「誰にものを言っているのよ? 私とアキが揃っていて負けるはずがないじゃない。アキは私が死ぬことを拒否するだろうから、全力で私を生かそうとするはずだわ。それで私が死ぬわけないでしょう」

 ――それはある意味、全幅の信頼と言えるものだ。

 レイシアは霧夜のことを理解しており、なんだかんだ人らしい一面が残っていることを知っている。

 自分が負けるとも思っていない。それで何かがあったとしても霧夜が全力で抵抗するだろうことも分かっている。

「……そうですか」

「ええ。でもあくまで助けられるならば助けるだけよ。出来ないのならば、私は自分の命の方を優先するわ」

「それで構いません。……レイシアさんはあのキレイドアの地に国を作っているんですよね。そのトップであるレイシアさんに何かあったら貴方を信じて待っている人たちに顔向けができません」

「私の国民たちは、私が負けたり死んだりするなんて考えてもないわよ。私が勝って帰ってくると彼らは信じてくれているもの。あんたもラインガルの土地を取り戻したらそのトップに立つのでしょう? 国を先導する存在になると言うのならば周りに信じさせなさい」

「ははっ、レイシアさんは本当に……、人を従わせる力がすさまじいですね。私もレイシアさんの言葉に何も考えずに頷いてしまいそうになります」

 レイシアがあまりにもまっすぐに、ただただ自信満々に告げる言葉は……レイシアのことを信じて大丈夫だと周りに思わせるものである。レイシアならば何でも成し遂げるはずだと、そう信じさせるもの。そういうカリスマ性がレイシアは強い。

「……貴方が、私たちを導いてくださればいいのになんて思ってしまうほどです」

「あら、甘えないでよ。あんたたちが私の国に来るのならば国民として受け入れてやらないことはないけれど、このままラインガルの地を取り戻すことに力を入れるのであればあんたが勝手に頑張りなさいって話だもの」

「分かってますよ。ただの願望です。……元ラインガルの土地を取り戻し、在りし日のラインガルを復活させることが私の悲願ですが、レイシアさんと道が分かれている以上同じようにはならないでしょう」

「それはその通りよ。そもそも私がいた所で、同じようにはならないわ。ラインガルは亡んで、お父様とお母様はもういないもの。失ったものはもう二度と戻らないわ。あんたが出来ることは新しく始めることだけよ。同じようにしようとしても同じには出来ないのだから、どれだけ新しく国を整えるかよ。まぁ、それはラインガルの土地を取り戻してから本格的に考えることでしょうけど」

 レイシアはそれだけ言うと、ヨームに背を向ける。

「じゃあ、私は行ってくるわ。私が暴れている間、あんたたちは好きにすればいいわ。元々の予定を変えて攻めてもいいと思うわよ。向こうからしてみれば私という存在はイレギュラーで、私が暴れれば暴れるほど、私の方に戦力を割くことになるだろうから」

 ――レイシアはそれから霧夜だけを装備して、反乱軍の一員の一人が捕らえられている場所へと向かうことになった。

 その表情はとてもじゃないがこれからたった一人で敵地に攻め入るようには見えない。焦り一つ見えずに、どちらかというと楽し気にその口元は弧を描いている。

 向こうはヨームに仲間の命を対価に降伏を求めている。

 しかしそれは猶予期間がある。その猶予期間のうちに救ってしまうのが一番だろうと、レイシアは敵を痛めつけ排除しながら、情報を集めていく。

「相手が交渉の場に選んだ場所、敵地のど真ん中ね」

《これ、大人しく交渉していたらそのまま潰されそうだよな》

「その通りね。降伏を選んだところで、全員殺されていたかもしれないわ。捕まった子に関しても良い扱いは受けていないでしょうし。戦での捕虜の扱いなんてひどいものになるのは当然だもの」

《特に捕まっている人は女なんだろ? 碌な目にはあってないだろうな……》

 捕虜というものは、酷い扱いをされるものである。特に女性であればどういう目に遭っているか想像はつく。

 霧夜の声は嫌そうであった。

「なんにせよ、生きていればいいわね」

《あー……そうだよな。命を対価に降伏を求めたとはいえ、それはおびき出すための虚言でしかない可能性あるよな。とっくの昔に捕虜が殺されている可能性もあるか》

「そうよ。寧ろその可能性の方が高いと思うわ」

 ――命を対価に降伏を求めたとしても、それを守るかどうかは相手次第である。



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