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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第九章 魔剣と少女と亡国の人々
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 結局のところ、元ラインガルの民たちはレイシアに縋るしか選択肢はなかったらしい。

 そもそもの話、彼らが自分たちの手で全てを解決できるだけの力を持っていたのならばレイシアを頼ってはこなかっただろう。

 レイシアの力がなければラインガルの地を取り戻すことなど出来ない。彼らはそう判断したからこそ、結局レイシアに縋るしかないのである。

 例え将来、聖教会が敵に回ったとしてもラインガルの地を取り戻せていなければどうしようもないから。

 ――ラインガルという土地は、レイシアが亡びを目撃したあの時からずっと取り戻すことが出来ない地になっていた。加護持ちであるラインガルの王家を、反乱で亡ぼしてしまった。その結果、他国が介入し、その地は昔とは異なる場所になってしまった。

 その場所を取り戻すことは、元ラインガルの民からしてみれば悲願である。

 元ラインガルの地はそれはもう荒れ果てている。そして元ラインガルの国民たちは迫害されている。

《やっぱり聞けば聞くほど、勝手だな。結局のところ、自分たちの悲願を叶えるために他力本願すぎる》

「どうしてもどうしようもないから、私に縋ってきたんでしょ。聖教会はラインガルを吸収した国ともそれなりに良好な関係だから、縋れなかったんでしょうし」

《……それ結局、レアシリヤの味方をしなくても隣国から元ラインガルの地を取り戻したら聖教会敵に回してんじゃね?》

「それはそうかもしれないわ。その辺があいつら考えたらずなのかも」

 レイシアは霧夜を背中に装備したまま聖教会の影響力の強いその街を歩いている。

 ちなみにレイシアと霧夜は心の中で会話をしているので、その会話は外には聞かれていない。

 聖教会は中々物騒な国である。正義を片手に、自分の信じる物のためならなんだって起こすであろう連中だ。

《聖教会って聖敵相手には容赦ないからな。悪と認定したら滅ぼそうとするし。そこにどんな事情があるかどうかなんてやつらには関係ない》

「アキはそういうの見たことあるの?」

《大分前の使い手が聖教会に故郷を亡ぼされた奴だったからな。聖教会はいきなりその村を亡ぼしたらしい。その村が彼らにとっての悪だったからって理由でな》

「勝者が歴史を作るものだから負けたら結局それは悪として認識されてしまうものよね。結局それはどうなったの?」

《聖教会に何かする前に死んだな。もうちょっと精神力があればよかったんだろうけれど、結局負けた》

「ふぅん、つまらないわね。どうせなら聖教会に一発かましてあげればよかったのに。折角アキを使用できるのならばそのくらい出来そうなのに」

 レイシアは霧夜という強力な『魔剣』を持っておきながら目的を果たす前に死んだのがもったいないと思っている様子だ。

《そりゃあレイシアみたいに精神が強くないと俺を使いこなすことは出来ないからな》

「ならアキは私に出会えて幸運ね」

《それはそうだな……》

 そうやって脳内で繰り広げられる会話。

 レイシアは時折笑みを浮かべながら、街を歩いていたのだが、その笑みに惹かれたのか、寄ってくる人物がいた。

「そこの女性、何か良いことがあったのですか?」

 ――そんな風に声をかけてきたのは、人当たりのよさそうな神官服を身に纏った男性である。

 聖教会に対して良い感情を抱いていないレイシアは、少しだけ眉を顰める。

「あんたには関係ないわ」

「まぁまぁ、そう言わず。貴方は外からの来訪者でしょう? よろしかったら今度行われる祭りに参加しませんか? 貴方のような美しい方にはぴったりです」

 そのようなことを言いながら、何処までもにこやかに笑う神官。

 レイシアとその神官の話を聞いている周りの様子が、何処かおかしい。そのことにはレイシアも霧夜も気づいていた。

「嫌よ」

 どちらにしてもその神官の申し出にレイシアが応じる必要性は全くない。

 なのでばっさりと拒否するレイシア。

「どうしてもですか? 祭りに参加し、役目を負っていただけるだけで善行が積むというのに」

「嫌といっているでしょう。どきなさい」

 不機嫌そうにレイシアはそう言い捨てる。

 善行を積むことで神の元へ正しく導かれる――などというのはレイシアにとっては全く魅力的ではない。それどころか死後、自分の魂が神の元へ行くのも気に食わない。そんなレイシアにそのような戯言が響くはずもない。

「なんと野蛮な言い方でしょうか。女性ならばもっとおしとやかにしなければ貰い手ができませんよ?」

「もう貰い手はいるから余計なお世話だわ」

「そうなのですか? それはまぁ……。しかし後悔することになりますよ?」

「しないわね」

 レイシアはそれだけ言って踵を返して、その場を後にする。

 何の目的をもってその神官がレイシアに近づいてきたのか、後悔するというのがどういうことなのかというのが分かったのは宿に戻ってすぐのことだった。

 宿に戻ったレイシアの前には、神官と聖騎士が居た。



 ――聖教会がレイシアを呼び出したのである。

 どうやら今度行われる祭りにレイシアが必要らしい。いや、レイシアのように美しく、それでいてこの街の住民ではない女性が欲しかったというべきかもしれない。



 


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