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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第九章 魔剣と少女と亡国の人々
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9

「……アキと二人じゃないとこれだけスピードが落ちるのね」

《仕方ないだろ。普通の人間はレイシアについていくので精一杯だ》

 船を乗り継いだりしながら、元ラインガルの地へ向かっているもののレイシアは微かな苛立ちを感じている様子だった。というのも、以前国民探しに外に出た時と比べて移動に時間がかかりすぎているからである。

 加護持ちの少女と、『魔剣』。

 そんな普通ではない一人と一振りだけならばもっと早急に動ける。しかしレイシアに頼みごとをした元ラインガルの民を置いていくわけにもいかず、レイシアは不機嫌そうだ。

 これでも元ラインガルの民たちは必至に足を動かしている。限界ギリギリまでレイシアに追いつこうとはしている。でもそれはレイシアが望むだけの動きではない。

《というかあれだけレイシアが鍛えているレアシリヤの連中だって、レイシアの望むスピードでついてこれはしないだろうな》

「皆が私についてこられたら色々楽なのだけど、まぁ、それは難しいかしら」

《そりゃそうだろ。加護持ちのレイシアを基準に考えればそういうものだ》

 レイシアは加護を持つからこそ、それだけのことを成し遂げるだけであり他の人はまず無理である。

《そもそも他がレイシアと同じだけ動けたら、反乱とか起きて大変そう。それだけ力がある存在が複数人居れば周りの考え方も変わるし、その分国を統一することなんて出来なくなってバタバタするぞ》

「まぁ、それはそうね」

 レイシアという少女の信念やカリスマ性に惹かれてレアシリヤの人々は集まっている。それが他にもっと同じように人を導くだけの力を持つ存在が居たら? と考えてみるとそこにあるのは分裂しかないだろう。

《レイシアが目指す最強国家には、レイシア以上に目立つ奴が居ればそれは大問題だ。大体強者が国をおさめるべきっていう国なんだからそういうのが居たら問題だろ》

「私と同じだけ動ける人が沢山いたとして、それを統率することが出来ないってことよね。確かに私ぐらい動けるなら誰かに従わないもの」

《俺もそう思う。でもレイシアみたいなのが沢山いてそれぞれが最強国家を作ろうとしているとかバトルロイヤルが起きてもそれはそれで楽しいと思う。結局全員蹴散らして一人しか生き残らない感じの》

「なによそれ。アキってたまによく分からないこと言うわよね。ただ一般国民はともかくとして、レアシリヤで騎士職みたいな役割になる人には戦えるようになってほしいわ」

《今のレアシリヤだと人数も少ないしそういう職業もあったものじゃないもんな》

「国として大きくなるのならばそういう職業も分散化していくことでしょう」

《でもあれだな。今はまだレアシリヤは他に知られていない場所だけど、広まったら国民も増えると思う》

 霧夜とレイシアはのんびりと会話をかわしながら歩いている。その少し後ろには息を荒げながらもなんとかレイシアたちについていこうとする元ラインガルの民たちは必至である。

「どうしてそう思うのよ」

《だってお前、国民になりたいってやつがいたらどんな奴だろうとも、どんな事情があろうとも気にせずに受け入れるだろ。正直レイシアが拒絶するような問題児が世の中にいるとはあまり思えないし》

「そうね。私の国の国民になりたいっていうなら全部受け入れるわ。あ、でも気が合わない聖教会の連中は別よ」

《あいつらはそもそも『魔剣』である俺を伴侶にするような女王がおさめる国に来たがらないだろ。世の中には周りから迫害されているような連中や生きにくい連中は少なからずいるんだよ。そういう今の世の中が、今いる場所が生きにくい連中にとってどんな自分でも国民として受け入れてもらえる場所っていうのはありがたい場所だろ。そういう連中がこぞってやってきて、レイシアがそれを受け入れ続ければ国民も増える。その分、敵も増えるだろうけどな》

 霧夜の言う通り、レイシアは国民になろうとする移民たちを拒絶することはないだろう。それだけその者たちがどういう事情を抱えていようともレイシアにとってみればどうでもいいことだから。

 それでいて敵が増えたところで、レイシアは全て蹴散らせばいいと思っている。そもそもの話、『魔剣』を伴侶にしている段階で敵が多いのでそういう敵が増えることに関しては今更の話である。

「それは素敵なことだわ! 何かのきっかけで私の国が広まったら爆発的に人が増える可能性があるってことよね。その後が問題よね。キレイドア内の人が住める土地なんて、そのまま横取りしようとするやつが結構いるだろうし。全員蹴散らさないと」

《そうだな。そこを乗り切れればレアシリヤはそのまま国として継続できるだろう。そこが踏ん張りどころだな》

「まぁ、ダメならダメで取り返すだけよ。まず取られないようにすることが第一だけど」

 重要な話をしているはずなのだが、レイシアと霧夜の会話はいつも通りでどこまでも軽かった。




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