5
《あいつらどうするんだろうな》
「さぁ、知らないわ」
レイシアの元へラインガルの元国民たちが訪れて少しが経過している。
彼らはどのように行動したらいいか判断がつかない様子である。対価として何を差し出せばいいのかが分からずに、このレアシリヤにとどまっているのである。
そうしてそういう連中を放置したまま、レイシアと霧夜は魔物と戦うことにいそしんでいる。
魔物と戦い、その魔物をその場からいなくならせることでまたレアシリヤの土地を広げることが出来るので、それはレイシアと霧夜にとって重要な仕事であった。
《馬鹿なことを言ったら喰うか》
「ええ。それでいいわ。アキが強くなることは、このレアシリヤにとっても良いことだから」
レイシアは簡単にそんなことを口にすると、霧夜をふるって魔物を両断する。
「何を私に代わりに差し出そうとしているのかって大事よね。それがレアシリヤにとって良いものだといいのだけど」
レイシアはそんなことを言いながら、楽し気に魔物と対峙している。
その差し出されるもの次第では、対価次第ではレイシアは喜んでラインガルのことを取り戻しに行くだろう。それが必要だと思っていればレイシアはすぐにその行動を行うような人間なのだから。
《レイシアがラインガルの地に足を踏み入れて、ラインガルの地を取り戻すことを行ったらそのままとどまって欲しいって煩くなりそうだよな》
「それは私のやることじゃないもの。邪魔するやつは全員殺せばいいわ」
《ははっ、それは取り戻した土地を結局荒廃させることになるぜ?》
「その時はその時よ。それでまた駄目になるならそれまでだったということよね。私を動かした上で、民を制御に出来ないならそれはあちらが悪いって感じね」
《それはそれでいいよな。適当にかき乱して、良いものだけかっぱらってくるとかもいいだろうな》
「ええ。そうなったらそうなったでいいと思うわ。それで対価がもらえなかったとしても、そこで手に入れられるものがあればまぁ、ありだわ」
《それでラインガルの元国民たちが絶望しようともレイシアは気にしないんだろうな》
「そうね。そもそも自分たちの力だけでどうにかしようとしているわけではなく、わざわざ外部である私を引っ張り出そうとしている時点で他力本願すぎるもの」
《向こうはレイシアを部外者とは思ってなさそうだけど》
「その考え方がまずだめね。ラインガルは正しく亡びているの。残りかすのようなものが元国民だってわけで、それをまた復活なんてありえないわ」
レイシアはそんな風にすっかり割り切っているので、元国民のことを残りかすのようなものなどと口にする。
その考え方の価値観の差異があるのだ。
その価値観の違いを元国民を理解できるか出来ないか。それ次第でこの交渉はどうなるか決まるだろう。
《それでもしラインガルの地に行くことになったら誰か連れてくか?》
「アキだけ連れていくのが一番動きやすいと思うわ。そういう荒れている地に連れていくのは死にそうじゃない?」
《確かに。レイシアについていける連中じゃないとどうしようもないな。それで国民が数を減らしても困るしな》
「そうな。国民というのはある意味国の一番の資源だもの。その数が減れば減るほど国としての建国が難しくなるわ」
《『魔剣』である俺を持っていくとまた煩いやつはいそうだな。亡きレイシアの両親が『魔剣』を持つわけがないとかいってたけど》
「そうね。ラインガルのことを求めている国民ほど、アキのことは嫌がるかもしれないわね。自分たちで亡ぼしておいて、そうだもの。本当にそんな風に勝手に亡ぼして、勝手に求めておかしいわよね」
《俺を連れていくのを認めなかったらどうする?》
「その時はそもそも助けないわよ。だってアキは私の国にとって必要不可欠なものだもの。私がこれから建国して、このレアシリヤが広まっていくのならばアキの存在も広まるはずだもの」
霧夜の存在は、レアシリヤの地が広まれば確実に『魔剣』の存在は広まっていく。
《まぁ、それはそうだな。ラインガルの土地がこの場所と隣接していたら配下に置くとかも出来たんだろうけど》
「それはそうね。ただラインガルは大陸も違うから、今回もし対価を受け取って何か行動を起こすとしてもその後関わりはなくなるんじゃないかしら」
レイシアはそんなことを何気ない口調で言い切る。
そうやって魔物を倒した後に、レイシアと霧夜が戻ると、何か言いたげな表情のラインガルの元国民たちがレイシアに話しかけた。
「レイシアさん!!」
「何か決まったの?」
レイシアがそう問いかければ、彼らは一瞬言いよどむ。
だけど何かを決意したように頷き、口を開くのであった。
「レイシアさんが、望む俺たちが渡せるものと考えると正直あまり思いつきませんでした。こちらで思いついたのはこの場所が国になった時ラインガルが助力すること。あとはレイシアさんの両親の形見の品を渡すことぐらいです」
言いにくそうに、だけど決意したように彼らが口にしたのはそんな言葉だった。