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「私が思っているよりもずっと、世界は残酷で、危険なことに溢れていて……まぁ、一人でぶらぶらと放浪している時に少し驚いたわ。私の見ていた世界の狭さと、強さがなければどうしようもない現実に」
「レイシアがそういうことに驚いているのも想像が出来ないな」
「私も子供だったもの。身なりの良い子供だった私は色々狙われて面倒だったわ」
霧夜はレイシアの言葉に、狙われるのは当然だろうなと思う。
見た目の良い子供は狙われてしまうものだ。それは奴隷にしたり、色んな使い方があるから。見た目が良いというのは、それだけの価値がある。
だからこそただ一人で帰る場所のなくなり、さまよっていたレイシアは大変狙われたものである。
王族としての教養があり、気品があり、美しい。
そんな子供が一人でぶらぶらしていれば狙われてしまうのも仕方がない話であったと言えるだろう。
だからこそ、レイシアはそれなりに苦労した。
「その頃は加護は使いこなせていたのか?」
「もちろん、今のようには使えないわよ。加護はあっても戦う力がなかったのよ。お父様とお母様は力を誇示することを望まなかったから。だから力任せに、狙われた時は加護を使ったわ。手加減なんて出来ないし、最初は大変だったけれど」
幾ら加護と呼ばれるものがあったとしても使い方を知らなければ結局どうしようもない。
今のレイシアを見れば、苦労を一つもしらずに力を手に入れたように見えるかもしれない。それだけレイシアは自信に溢れていている。それでも昔のレイシアはただの少女でしかなく、苦労してきたのだ。
「加護がなければレイシアは此処にはいなさそうだよな」
「そうね。死んでもおかしくないことは結構あったわ。魔物も人も、私の命を脅かすものが沢山あったもの。そういうのをなんとか死に物狂いで倒していったのよ。子供一人で生きていくにはこの世界はそこまで優しくないのよ」
「この世界にも孤児院とかはあるだろ」
「あるけれど、孤児院にも色々あるのよ。その孤児院の子供たちを売り払ったり、実験道具にしたり、迫害したり――そういうのも多いわよ。親が居ないというのはそれだけで守ってくれる人が居ないという状況だもの」
レイシアの話によると、孤児院というものも色々あるようである。この世界は弱者はすぐに命を落としてしまったり、搾取されてしまったりするものだ。
霧夜だって、この世界に召喚されて、弱かったから人として死んだ。
『魔剣』になってからも、霧夜は様々な人たちを見てきた。孤児院とはかかわりはなかったが、中々大変なようだ。
「生きていくために戦ってお金を集めて生活したわ。ただ子供だとなめられて宿に泊まるのも一苦労したわね。人も魔物も襲ってくるから困るものだわ」
「男が襲ってきたって、性的な意味でか?」
「そうね。子供相手にそういう風な感情を抱くなんて中々変態的だわ」
「……この世界、ロリコン多そうだよな」
「ロリコンって何よ?」
「幼い少女が好きな大人」
「結構多いわね」
霧夜の言葉に、レイシアは笑いながら告げる。
大の男に少女が襲い掛かられるのは恐ろしいことだろう。そういう目に遭い続けても、心が折れることがなく、自分の目標を叶えるためだけにレイシアは此処まで猪突猛進し続けた。
「童貞だった霧夜はそういう経験はなさそうよね。珍しい黒髪と黒目だから欲しがる女性は多そうだけど」
「……俺は物じゃない」
「分かっているわよ。ただ珍しいから、アキが人の姿でうろうろしたら奴隷にしようとする人とか多そうだわ。あんまり一人で人の姿で街をうろうろしない方がいいわね」
「俺は子供か何かかよ。別にそういうのが来てもどうにかする」
レイシアの言葉に霧夜は何とも言えない表情でそんなことを言う。
霧夜の黒髪黒目は、この世界ではとても珍しい。
この世界ではほとんどいない色であり、若い男である。珍しいので、霧夜を欲しがる存在は多いかもしれないのだ。
霧夜はこれまでほとんど『魔剣』としての姿でだけ生きていた。レイシアに使われるようになってから、人の姿になることも増えてきた。
今はまだこの場所は周りに知られていないけれど、そもそも自我を持つ特別な『魔剣』というだけで霧夜を欲しがる存在は多いだろう。ただ今まで霧夜を手にした者たちが、狂ってしまい、手にすることは出来なかったが。
そう考えると、レイシアは唯一正式に《災厄の魔剣》を所有している存在であると言えるだろう。
「アキは珍しい『魔剣』だものね。この国が正式に広まったら色々煩いのが多くなりそうだわ」
「レイシアもラインガルの姫だったんだから、そのあたりが広まったら色々よってきそうだよな」
「それはそうね。ラインガルはそれだけ大きな国だったし、その加護を求める連中も多いもの」
この場所が国として正式に広まればおそらくそれはもう騒ぎになるだろう。
「そういう連中が寄ってくると面倒そうだ」
「全部蹴散らしてしまえばいいだけよ」
霧夜の言葉に、レイシアはそう言い切った。