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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第八章 魔剣と少女の昔話

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「『魔剣』であることを受け入れたアキは今まで好き勝手生きてきたってことよね。アキらしいわ。《災厄の剣》なんて呼ばれ出したのはいつからなの?」

「それは俺が『勇者』を殺してから大分後になってからだな。最初は《勇者殺し》とかそういう名前だった気がする」

「なるほど。アキが『勇者』を殺したことがかすむぐらいのことをやらかし続けたからこそ、《勇者殺し》ではなく、《災厄の魔剣》って呼ばれるようになったということね。一つの出来事だけを起こしたのならば、そんな風に言われるはずがないもの」

 霧夜はレイシアと出会った頃には、すでに《災厄の魔剣》と呼ばれれていた。それにはそれ相応の理由がある。そう呼ばれるだけの行動を起こしていなければ、霧夜はただの《勇者殺し》の『魔剣』でしかなかったのだろう。

「そうだな。どうせ『魔剣』になったなら、『魔剣』として一番有名になった方が面白いだろ」

「ふふっ、本当にアキらしいわ。アキ的にはどういった出来事が面白かったの?」

「レイシアだって俺の逸話ぐらいは知っているだろ」

「知っているけれど、結局アキは《災厄の魔剣》と呼ばれるだけのことを起こしているから、沢山の噂が錯綜しているじゃない。どれがアキの実際の噂かはアキから聞いた方が正しい情報が聞けるもの。私も、祖国が滅んだ後、散々色んな噂を流されたし」

 霧夜とレイシアは立場が異なる。『魔剣』である霧夜と、人間であるレイシア。その生き方も異なるけれども、似ている部分もそれなりにある。

 レイシアもそういう噂に晒されてきたので、結局本人から聞いた方が一番だと思っている。

「……覚えている記憶の中で、『勇者』のこと以外に強烈に覚えているのは聖教会の信者狂わせた時のことだな」

「あら、聖職者のくせにアキにやられたの?」

「まぁ、それなりに力の強い聖職者が、子供を亡くしたとかで弱ってたな。俺の噂を誤解していて、俺を手にすればその子供をよみがえらせることも出来るのではないか……って思ったらしい」

 霧夜はそんなことを言いながら面白そうに笑う。

 結局のところ、人の心というのは弱いもので、どれだけ神への信仰心があろうとも、どれだけ『魔剣』に心を動かされることなどありえないと自信満々だったとしても、その隙は必ずある。

「それで俺の所有者にして、子供を生き返らせるためとか言って、非道なことをやらせてみたら本気でやるから、すげぇなとは思った」

「アキって、魂を喰らうことは出来るわよね。魂を扱うなんてことが出来るなら、よみがえらせることも出来るって期待したのかしら」

「それを『魔剣』に望むあたり、馬鹿だろ」

「結局神に祈っても子供を生き返らせないから、可能性を信じてそうしたってことよね。死んだものはどうしようもないのに、馬鹿だわ」

「レイシアは例えば子供が死んだとしても受け入れそうだよな」

「そうね。死んだものは仕方がないもの」

 レイシアにとっては、人の命は本当に軽いものである。

 誰かが亡くなったとしても、レイシアは気にすることもない。それがたとえ、自分が産んだ子供だったとしてもそこまで必死になるとはレイシアは思わない。

「……というか、レイシアは自分が死ぬ時だってやることを全部やりきっていれば全部受け入れそうだよな」

「まぁ、そうね。人の死というものは抗えないものだわ。死ぬときは私は死ぬわ。だから、それまでに私は後悔なんてしないように好き勝手生きるのよ」

 レイシアがそんな風に、割り切っているのは自分の祖国が亡びてしまうという一件があったからだろう。そうでなければレイシアはのびのびと普通の王族の姫として生きていたかもしれない。

 レイシアにとって、祖国が亡びたという出来事は一番強烈な出来事である。それでもレイシアはその出来事が悪かったかと言われると、結果的にはそれは今の人生にとって必要なことだったと思っている。

 なぜならレイシアは祖国が亡びなければ今の自分がいないと思っているから。今の人生をレイシアは心の底から楽しんでいる。最強国家をつくるという目標を叶えるために行動をすることも同様である。

 だからレイシアは過去に戻りたいなどとは思わない。

「アキは、過去に戻れたら何か変えたいとは思う?」

「……『勇者』に巻き込まれないようにはするかもな。ただまぁ、色々あったけれど結局俺も今の『魔剣』生活を気に入ってはいるから、結局どうするかは分からない。まぁ、過去に戻るなんてありえないけど」

「まぁ、そうね」

 霧夜はレイシアの言葉にもし仮にあの時、『勇者』に巻き込まれなかったら――というのを少しだけ考えてみる。

 巻き込まれなければ当たり前の、ただの日本人としての人生を歩んだことだろう。

 それはそれなりに充実したものになっただろう。でも今の『魔剣』としての楽しさを知っているので、本当にそういう道を選ぶかどうかは分からないが。



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