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霧夜はあくまで『魔剣』であり、レイシアの武器という立場である。ただ霧夜は自我を持ち合わせているので、その村で自由気ままに過ごしている。人の姿を取って動いていたり、ただ『魔剣』の姿でそこにいたり――。
もちろん、《災厄の魔剣》などと呼ばれている恐ろしい存在のことを建国に関わらせたくないとしているものは多くいる。それでも比較的、霧夜の存在はその村で当たり前のように受け入れられつつある。
「ゼクセウス様。遠い未来の話ですが、レイシア様が没した後も、この場所をお守りいただくことはできませんか?」
霧夜はチュエリーから突然、そんなことを問いかけられたことに驚いた様子であった。
ただすぐにその後に面白そうな、悪だくみをしてそうな表情に変わった。
《――はっ、それはこの国が俺が満足するだけ面白い場所であるかどうかだな。つまらないなら、崩壊されるのも一興》
「……ゼクセウス様は本当にぶれない方ですね。ゼクセウス様が壊したくないと思ってくださるような国をちゃんと作らなければなりませんね。ゼクセウス様がいてくれれば、きっとレイシア様が没した後も問題がないはずですから」
《『魔剣』である俺がいたら問題がないと言い切るのが変わりものだよな。チュエリーも》
「だって私がこの場所で生きていこうと決めたのは、レイシア様とゼクセウス様が作ろうとしている国だからというのがありますから。レイシア様とゼクセウス様が両方揃ってこそのこの場所だと思いますから」
チュエリーはレイシアという存在に心惹かれ、此処にいる。
それと同時に『魔剣』である霧夜が居てこそだと思っている。だからこその言葉だが、それに同意するものなどあまりいないだろう。
《俺がいることで、この国が荒れる可能性の方が高いと思うけどな》
「それでも結局、結果が伴えばゼクセウス様がこの国に居るのが当たり前になって、ゼクセウス様を皆が敬うようになるんじゃないかなと思います」
《いや、ないだろ》
霧夜はチュエリーの妄想のような未来の話に、何を言っているんだとでもいう風に言い切る。
霧夜は幾ら建国に自分が関わったところで、あくまで《災厄の魔剣》と呼ばれる存在である。人を不幸に追いやり続けてきた『魔剣』を当たり前のように受け入れる国なんて普通に考えたらあり得ない。
レイシアだって、霧夜が『建国の剣』と呼ばれるようになったら面白いなんて言っていたが、そういう未来が来ることは霧夜には想像が出来ない。
本当に《災厄の魔剣》をそのように崇めるのならば、聖教会からは邪教徒の国のように思われてしまわれることだろう。ただでさえ『魔剣』を所有しているというだけで聖教会に睨まれているのにも関わらず、そういう道をあえて選ぼうとしているのはなんだか霧夜からしてみれば理解は出来ない。
「ゼクセウス様はこの国に留まらせるための何かが欲しいですね。ゼクセウス様が『魔剣』ではなかったら分かりやすいのですけど」
《『魔剣』じゃなかったら何かしら俺に枷をつける予定だったのか?》
「んー、そうですね。男性でしたら一番手っ取り早いのは、女性をあてがうことでしょうか。男性には女性をあてがって、ハニートラップのようにからめとるのが一番だと思います」
チュエリーはそんなことをばっさりという。
《まぁ、普通ならな。俺は俺の意思に沿わないことを押し付けられるのならば――確実に暴れるぞ》
「まぁまぁ! ゼクセウス様に暴れられてしまったらこの国も大変になりますよね。ゼクセウス様、貴方はどういったものが欲しいですか?」
《普通に流すなよ。とりあえず面白いことが起こり続ければそれでいい》
「ゼクセウス様はなんだかんだ欲が少ない方ですよね」
《いや、俺にそれを言うお前がおかしい》
霧夜はチュエリーも中々変な女性だと思う。
霧夜は決して無欲ではなく、無害ではなく――、楽しいことばかりを求めている。寧ろ欲望だらけなのが霧夜だと自分は思っている。
「いえ、ゼクセウス様以上に人の業というのは深いものです。ゼクセウス様は剣だからこそ、分かりやすい面も多いと思います」
霧夜はそんなチュエリーの言葉に、本当にここには変わり者が多いなどと思う。
途中で会話に飽きたのか、霧夜は剣の姿のままその場から飛び去って行った。
チュエリーはその様子を見ながら、「ゼクセウス様をとどまらせるためにはどうした方がいいのでしょうか」などと呟き、レイシアのもとへと向かうのだった。
そしてどんな会話がなされたのかは不明だが、
「アキ、あんたが私の夫になりなさい!!」
と、レイシアが特攻してくるのは、それから少し後の話だった。