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居なくなった赤ん坊を探すために、レイシアは尋問している。
誰か赤ん坊の姿を見なかったが、最後に見たのはいつなのか――それを霧夜を使って脅しつけながらやっているのだ。
霧夜は武器として使われながら愉快な気持ちになっている。
「最後に見たのは、つい一時間ほど前のようね」
《そうだな。つい少し前ってなると、犯人は絞れそうだよな》
「そうね」
レイシアが脅しつければ、すぐにレアシリヤの人々はすぐに情報を吐く。というのも情報を吐かなければレイシアが怒りをあらわにするのが分かっているからだろう。
集まった情報を纏めると、母親が目を離した隙に攫われてしまったらしい。攫って行ったのは、レイシアの考えや『魔剣』を使うことに反発を持っている人たちの行動らしい。男の一人が赤ん坊を攫い、その赤ん坊は別の場所へとつれられたようである。
村の外に連れ出していないのは、分かっている。
そもそもこのキレイドアの地は、人が生きていくのに難しい場所なのだ。そんな場所で赤ん坊を村の外に連れ出すのは憚れたのだろう。
(そもそも赤ん坊を森に連れ出すことを躊躇うぐらいならば攫うことなどしなければいい。それだけの覚悟がなければ最強の国を作るという覚悟のあるレイシアをどうにかすることなど出来ない)
――何かを変えるためには、覚悟が必要だ。
レイシアは何が何でも、どんなことがあったとしても最強の国を作ろうと思っている。
その覚悟を覆すほどの覚悟がなければレイシアから国の主導権を奪うなんて真似は出来ないだろう。
「赤ん坊、返しなさい」
レイシアははっきりとそう言い切って赤ん坊を攫った人物たちのいる場所に突撃した。
ドアの扉を思いっきり蹴り上げ、その場に乗り込む。
そこに居るのは複数名の男性である。
その男性たちは、レイシアを力強く見ている。
「レイシア様……、もう駆け付けたのですか」
「私の国の国民を攫うやつらに私が対応するのは当然でしょう?」
大国の王族ならばまず自分でそんな風に行動はしないだろう。霧夜はレイシアがこうやって自分の足で動くのも面白いなと思っている。まぁ、レイシアの望む国というのは普通の国ではなく、レイシアが主導の最強の国だ。
もしかしたらレイシアはこの国がもっと大きくなっても同じように自分で動くのかもしれない。
まぁ、どちらにしても霧夜にとっては面白いことなのでどちらでもいい。
「レイシア様、国民のことを思うならその『魔剣』を手放してください。《災厄の魔剣》なんて恐ろしいものを建国に関わらせようとするなんて正気でない」
「あなたが正気と思おうが、それはどうでもいいのよ。私がアキを使うと決めたのよ。その方が最強の国家になるわ」
「……この際、最強の国家というのは目指さなくていいと思います。レイシア様はこうしてこの人が踏み入れることが出来ないキレイドアに村を作った。最強なんて目指さなくてもこの場所に国を作ることは出来ますし、『魔剣』なんて使わなくてもいい」
「それは私に自分の目標を曲げろっていってるの? 私にとってただの国はどうでもいいの。そんなものは私は要らないの。私が作ることを決めたのは最強の、誰にも負けない国よ。だからこそ、それにアキを関わらせるって決めたの」
レイシアの意見は曲がらない。
レイシアにとってただの国はどうでもいい。自分が目指している国でなければ、レイシアにとってはそんなものを作ったって意味がない。
それはレイシアの祖国が亡びた時からずっとレイシアが考えていることである。
結局その覚悟は本人しか知らない。レイシアの国の民になると決めたものたちだって、レイシアがどれだけの覚悟を持って今この場にいるのかを正しく理解していないのだ。レイシアがまだ若い娘だからというのもあるかもしれない。諭せば分かってくれるのではないかというそういう期待があるのかもしれない。
霧夜はこういう人の葛藤や期待などを観察するのがとても愉快だった。
レイシアが揺るがないことを霧夜は知っている。だから赤ん坊を攫ったものたちが折れなければ、どちらかが死ぬだけでの話である。
「レイシア様。貴方がそんな風に言うなら私たちは赤ん坊を返しません。寧ろ――殺します。その『魔剣』と国民のどちらが大事なのですか?」
「両方大事に決まっているでしょう? やるならやればいいわ。それをした瞬間、私はここにいる全員の首を切るわ。私の国民を傷つける者は、もう国民ではないもの」
悩む素振りさえも見せない。
レイシアにとって、赤ん坊の命というのは自分の信念を揺るがすものには決してなりえない。
そもそもどんなものを賭けられようとも、レイシアにとって最強の国家を目指すことは変えられない野望であり、そのためにも霧夜は必要だと判断しているのだ。