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レイシアは躊躇わない。
レイシアは自分の目的と望みのためならば、なんだって行ってしまう。
――目の前で人の命は簡単に散る。レイシアにとって、逆らうものは切り捨てる存在でもある。
そのことをそのレアシリヤのものたちは理解する。
理解するからこそ、レイシアについていくことを選んだのは自分たちにも関わらず、レイシアに対する恐れの意思を抱く。
霧夜はその様子を、その空気を感じながら人とは中々自分勝手なものだとそんなことを考える。
(レイシアは最初から自分の気持ちを隠していない。本質をさらけ出していた。なのに今更そういう風に失望するだなんて……本当に自分勝手だ)
霧夜はそんなことを考える。
霧夜が人間だった頃も、そして『魔剣』となった後も、霧夜の見ている人々は自分勝手な存在が結構多い。
そもそも『魔剣』なんて存在のことを手にしようとする存在なんて大体が自分勝手な存在ばかりであるが。
「アキ、あんた遊んでたわね」
《……まぁ、俺を手にしたらどうなるのかって思ったから。それにレイシアが俺を使うようになってから、他のものに使われたことはなかったからな。やっぱりレイシアみたいに精神を保ったままは無理だったな》
「アキのあのささやき? あと心に投げかけてくるような欲望? でもそれって結局自分にまけて、アキに呑まれてしまうからってだけでしょう? そんなの、心を強く保てば問題なんてないのよ」
《それはレイシアだけだろう》
レイシアは簡単に言うが、それはレイシアだけである。霧夜の長い『魔剣』としての生の中で、レイシアのような存在は会ったこともなかった。
《これで俺を手にするやつらもいなくなるのかな?》
「何だか狂わせたいって思ってそうね?」
《それはそれで面白いかなって。そしてレイシアがそれを切り捨て続けて、それでもこの場所が国として発展していくのかとかな》
「……あのねぇ、そういうのは発展させられるかじゃなくて、発展させていくのよ」
そう言ってレイシアは相変わらず不敵に笑っている。
たった一人だったとしても、誰もついていかないとしても、きっとレイシアはこのままだ。でもレイシアの面白い所は、これだけ自分勝手に生きていてもカリスマ性を持ち合わせている。
だからこそ、きっと、このまま我が道を行ったとしても、彼女はそれを成し遂げるだろう。
《あのレイシアが殺した男と親しくしていた者は、レイシアに恐怖するか反発するかだろうな。残るのはレイシアのやっていることを受け入れられるような存在だけかもしれない。それでもきっとレイシアは止まらないんだろう?》
「面白そうに笑いすぎじゃない? まぁ、その通りだけど。そもそもちょっとした出来事で諦めるぐらいならここまできていない。それに自分の夢を何かの拍子に諦めるってことは、それまでに犠牲にしてきたものや失ってきたものがその瞬間全てが無駄になるもの。アキもそういうことを考える時ってある?」
《まぁ、そうだな。俺の場合だと、『魔剣』としての生き方を変えるってことだろ? まぁ、そんなことしていたら今まで喰ってきた魂は何だって話になるしな。俺に明確な意志があるのが分かれば、俺を良い方にしようって説得してくる奴もいるだろうけど、そんなの聞く気もないし》
「アキも本当にブレないわよね」
レイシアは笑いながらそんなことを言う。
霧夜はレイシアの言葉に、自分もレイシアと似たようなものだななんて思った。結局のところ、レイシアも霧夜も周りから影響を完全に受けないわけではないが――芯のところはぶれない。
レイシアは自分の国を作ることを、霧夜は『魔剣』としての生き方を。
それを二人とも変える気はない。
そのことを考えると思わず霧夜は笑ってしまった。
そのブレない生き方の一人の少女と、魔剣は、過ごしている。
《レイシアは、例えば国民がこれで離れていったとしてもまた国民を探すんだろう?》
「ええ。そうよ。私が生きていれば、その夢はまだ続いているから。というか、流石に全員はいなくならないだろうし」
レイシアと霧夜は相変わらずのんびりとした会話を交わしていて、つい少し前に人の命が失われたなんて考えさせられないほどである。
――そしてそんなのんびりと会話を交わしている霧夜とレイシアの様子を遠目に見ながら、カイザーは何とも言えない表情を浮かべている。
危険な『魔剣』。
それでいて、その『魔剣』を隣に置くことを望み続けているレイシア。
レイシアは霧夜が遊んでいようとも、特に気にした様子がない。
カイザーはそれを受け入れているけれども……それでも何とも言えない気持ちには当然なるものである。
そしてレイシアと霧夜もカイザーの心境には気づいているが、特に何か行動を起こすこともない。
今の所、レアシリヤの人々は恐怖に沈黙している。
――まだ、このぐらいではきっと収まりはしないと言う予感はレイシアも霧夜も感じている。




