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魔剣と少女の物語  作者: 池中織奈
第六章 魔剣と少女と王位の話

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8

 《災厄の魔剣・ゼクセウス》

 その『魔剣』は正しく災厄である。

 幾らレイシアの傍にいて、人のように喋り動く様子を見て、油断するものは多いかもしれない。レイシアと戯れている様子だけを見れば、霧夜は『魔剣』などと呼ばれる危険な存在には見えない。

 ――そういう危険な存在に見えないからこそ、油断する。

 その『魔剣』を手にしても問題がないのではないかと、誤認してしまう。

 決して、そんなことはないのに。

 幾らそう見えなくても、――それこそ、《災厄の魔剣》。

 霧夜は、『魔剣』として生きている。

 そして手にしたものを狂わせようと、囁き始める。

 それは周りを殺すことを囁く。その『魔剣』を手にしたものは、皆、その力に魅了されてしまう。霧夜はこの場所が、レイシアと作りかけの村であろうとも気にしない。――所有者を狂わせようとする。

 レイシアはその強靭な精神をもってして、『魔剣』に精神を壊されることも、狂わされることもなかった。だけどそれはレイシアだからこそ、出来た事である。

 霧夜に手を伸ばしたものは狂った。

 ――そしてその狂うことを、霧夜は止めない。

(さぁて、こいつが狂ったらレイシアはどんなふうに動くだろうか。俺が暴れて離れていく奴もいるかもしれないけれど、そういうところをどうにかできないぐらいだったらそもそもこの場所は国へはなりえない)

 霧夜は狂った人に装備されながらも、そんなことを思考している。

 やはり霧夜という『魔剣』は、愉快犯で、周りが予想外の事態に転がることを望んでいる。――そういう思考をしているので、霧夜は《災厄の魔剣》という名前以上に危険な存在であると言えるだろう。

 霧夜は、レイシアの国作りが上手くいくことを望んでいる。それはレイシアが国を作って、最強の国家の女王として君臨しているレイシアを見るのが楽しみだと思っている。けれどもそうならなくても、面白いと思っている。

 このまま、此処でレイシアの国作りが挫折しても……それでも霧夜にとっては良いと思っているのだ。

「きゃああああ」

 霧夜を手にした男が暴れている。

 その場に悲鳴が響こうが、切り捨てられようが――霧夜は平常心を保ったままだ。

 幾ら普通の男とはいえ、《災厄の魔剣・ゼクセウス》を手にしているその者は、危険である。

 たまたまレイシアがその場にいなかったことも不運であったと言えよう。

 ――そういうわけで、霧夜を手にした男と対峙しているのはカイザーである。

 カイザーは霧夜が明確な意志を持っていることを理解している。だからこそ、うめき声をあげながら狂い、暴れているその男ではなく、霧夜に向かって口を開く。

「ゼクセウス! その男の暴走を止めろ!」

 そんな言葉を口にされても、霧夜は特に止める気はなかった。そもそもカイザーの言うことを聞く義理もない。霧夜はやっぱり面白ければいいとそう思っているだけなので、自分のことを手にしたものが狂おうがどうでもいいと思っている。

 霧夜は、止めようと思えば止めれるが、それをする気はない。

 カイザーは、霧夜が男を止める気がないのを実感して舌打ちをして剣を片手に男を止めるために襲い掛かる。だけれども、霧夜は自動で動く剣である。狂わせているその男を、もっと暴れさせるために――霧夜はカイザーの振り下ろした剣を受け止める。

 カイザーは、霧夜を持つ男に次々と剣を振り下ろすが、逆に男に押され始める。

 普通の男でも霧夜を手に持つということは、それだけ危険であるということである。だからこそ、霧夜は《災厄の魔剣》などと呼ばれているのだから。

 あくまでこの場所でレイシアと共に過ごしている霧夜を見るとそういう風には見えなくても、霧夜はやはり危険な存在なのだとカイザーは改めて思った。

(でもこの危険な『魔剣』をレイシアが手放すことはきっとないだろう。レイシアはゼクセウスを手にしていても狂ってはいないが、普通なら狂うのが当然なんだろう。……なら、改めてゼクセウスの危険性を周知して、触らせないようにしなければ。その前にこの場をおさめなければならないが――)

 カイザーはそんなことを思考しながら、霧夜を装備する男に向かいあう。

 だけど男を殺さないように止めようとしているからこそ、押され始め、霧夜の手によってカイザーは斬られる。

 血が流れ、動きが鈍る。

 その絶望的なタイミングで、

「あら、アキ、何を遊んでいるの?」

 レイシアが帰ってきた。

 その言葉は何ともいつも通りである。悲鳴が響こうが、緊迫した状況だろうが、レイシアにとっては霧夜がただ遊んでいるだけにしか見えないのだろう。

 霧夜はそのことが面白いと思う。

 狂っている霧夜を装備している男は、レイシアに向かって霧夜を振り下ろし――、

「煩いわね」

 そんな一言と共に、命を散らした。




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