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レイシアという少女は独裁者である。民に寄り添うことを望むのではなく、民を率いることを望む。民の意見を完全に聞かないというわけではないが、その意見が自分の意志とは異なるならば、簡単に切り捨てる。
――そしてその意志は、何がどうあがいてもブレることはない。
(あいつがあれだけ独裁者であろうとするのは、祖国が滅びたから。だからといって国を作ろうとして、民の言うことを聞きすぎずに独裁者を目指すなんて本当に変な女だ)
霧夜はそんなことを思いながらも、人の姿でトラップを作成したり、レイシアに言われたことを進めている。
ちなみに人の姿でレアシリヤの街をうろうろしている霧夜のことを大多数の人間は怯えている。中には、当然、《災厄の魔剣》などと言われている霧夜のことをこの場所から排除したほうがいいのではないかと目論んでいるものだっている。
それだけ霧夜という存在は、存在そのものが危険な存在だから。『魔剣』である霧夜は、周りから恐れられるのが当然であった。
人を狂わし、災厄をもたらす『魔剣』。
カイザーだって、そんな霧夜のことを手放すべきだとレイシアと意見の食い違いを起こしたことがあるぐらいだ。最近このレアシリヤにやってきた者達からしてみれば、独裁的なレイシアに、レイシアの使っている『魔剣』にと……色々と不満を溜めているものである。
霧夜のことを排除しようとか、どうにかしようだとか、色々考えている者たちはいる。ちなみにレイシアに不満を抱いている者たちの中にも色々あるらしいというのが霧夜も把握している。
レイシア自身が独裁的であることに不満を抱くものたち。その中でもレイシアを慕っているからこそ、レイシアに自分たちの意見をもっと聞いて欲しいと思っているもの。彼らはぶっちゃけレイシアのことがとても好きである。好きだからこそ、そういた不満を抱いている。
そしてレイシア自身に対する気持ちが不満のみしか残ってないものたち。彼らはレイシアに誘われて此処にやってきたわけだが、此処での暮らしが思っていたものと違ったのだろう。その不満をレイシア自身にぶつけようとしているもの。
あとはレイシア自身に対する不満というより、レイシアが武器としている霧夜という『魔剣』に対して不可解感を表しているもの。レイシアのことを特別視すればするほど、その《災厄の魔剣》などと呼ばれる霧夜が武器であることに不満をもっていたりもするらしい。
こちらに関してはレイシアのことを特別視しているからと言えるだろう。特別な存在に相応しい武器ではないと、そんな風に決めつけている。
レイシアからしてみれば、どの考えも知った事じゃないというのが本音だろう。レイシアにとってみれば彼らの主張はただしくどうでもいい。そんなものはどうでもいいから、自分の言うことを聞けばいいとただそれだけを思っている。
だからこそ、カイザーは苦労しているようだ。
この場所で反乱が起こらないように、レイシアに向かって反旗を翻さないように必死である。
傭兵として生きてきたとはいえ、カイザーは常識的な男である。そしてレイシアのことも理解している。レイシアは反旗を翻されれば迷わずその命を刈り取る。
それが分かるからこそ、必死な様子だが……このレアシリヤの中で、カイザーほど必死に反乱を止めようとしているものはいない。
「レイシア様に逆らうのが悪いので、逆らうなら逆らうでつぶされるのは仕方がないです」
チュエリーに至ってはそんな感じである。
「我らはレイシアに従うだけだ」
強者に従うのを当然としている竜人たちはその調子で、別に反乱がおきてその命が散らされようがどうでもいいと思っているようだった。
霧夜に関してもそんな調子で、レイシアへの不満を抱いていない者に関しては我関せずと言った感じのものが多い。あとチュエリーのような思考のものもそれなりにいる。
そんな調子なのでカイザーは自分に同意してくれるものを連れて必死に説得をしたりと大忙しのようだ。
レアシリヤのものたちを鍛えることや、周りの魔物退治などもしながら、反乱が起きないように必死なカイザーははっきりいって働きすぎであった。
霧夜からしてみれば、そういうことのために働きすぎているカイザーのことはいまいち理解が出来ない。
(もっと振り切れればあいつも楽だろうに、変なところで常識人だからこそ……そうなんだろうな。もうちょっとレイシアみたいに振り切れればいいのに。まぁ、あれはふりきれすぎだけど)
霧夜はそんなことを考えながらも楽しそうに事の成り行きを見守っている。
霧夜は自分が排除を望まれていようとも、いつも通りである。
《災厄の魔剣》という存在は、排除を望まれたところで排除されるような存在でもない。そしてやろうとしても出来ないものばかりである。
霧夜自身、『魔剣』となってから色んな経験をしてきたが今の所壊されるような危機に瀕したことはそんなにない。そして普通の人間が『魔剣』を壊せるものではないことも十分承知していた。
そのため、『魔剣』である霧夜を排除しようと村人が霧夜に手を伸ばす計画を知っていてもそれを阻止しようとはしていなかった。
寧ろ敢えて手を伸ばさせることにしたぐらいである。




