プロローグ
※新人賞に応募して落ちたものの長編版
第一章は応募した内容です。とりあえず第一章を一気に投稿します。
今から、少し昔の話。
ラインガルと呼ばれる王国が存在していた。
だけど、その国は滅びた。
少女は閉ざされたその場所の中で震えていた。
美しく輝く黄金の髪が、腰まで伸びていた。それはパーマがかかったかのようにふんわりとしている。
小さな顔に丸々とした可愛らしい青色の瞳が輝いていた。桃色の唇に、雪のように白い肌。
それに加えて、青色の宝石の輝くドレスを少女は身に纏っていた。
見るからに貴族のお姫様に見える彼女は、事実、ラインガルの王女であった。
ラインガルは砂漠の中に存在する、貧富の差の激しい厳しい国であった。
ラインガルがこれまで、二百年もの間存続出来た理由は王族の圧倒的な強さであった。
神々の加護を与えられた王家。
だからこそ、力で民を抑えつけ、侵略者をその力を持って葬り、時には他国を征服してきた。
しかしそのラインガルも今、少女の視界の先で滅びに瀕していた。
少女の視界に入るのは、倒れ伏せている自分の家族。王家の証である装飾具を身につけている家族達。
そして自分達を守っていた騎士達さえも息はない。
少女の母親も、父親も、もうとうに事切れている。
この国の後継者であった少女のみが生きていた。王族しか知らない隠し部屋の中に居た。
その先には隠し通路もある。
両親は逃げろと言った。貴方だけでも逃げなさいって。
だけど少女は逃げる事をせずに、隠し部屋の中にまだ存在していた。見つかれば即殺されるだろう。
だって城に存在しているのは、王家打倒を目指した民達だったから。
それは反乱だった。
少女の父親は今までの王とは違った。力を誇示する事を望まなかった。それに加えて、加護も歴代の中でも最も弱かった。
少女の母親も同様に力を示す事を拒んだ。何処までも優しい政治を行おうとしていた。
それでもついこの前までは良かった。だけど飢饉が起きて元々厳しい生活を行っていたラインガルの民達は貧困に陥った。
少女の両親はそれを必死に助けようとしていた。
だけどそれも上手くいかなかった。
そんな所で他国にそそのかされて民達が反乱を起こした。
今までラインガルの王家に逆らおうとする民はほぼ居なかった。それは力を示していたからだ。圧倒的で、勝てないと民に思われていたからだ。
だけど今の代の王は違ったから。
力を示さなかったからこそ、こうなった。
それに加えて少女の両親は優しすぎた。
民の反乱を止められず、それに抗えない事を知ると新しいラインガルになるためにも自分達が死ぬ事さえ躊躇わなかった。
王と王妃は、民と向かい合う事を望んだ。
それでいて民を傷つける事を望まなかった。
だから、自分の娘である少女だけを逃がした。
自分の両親が、反乱軍達によって無残に殺される光景を少女はずっと見ていた。
目をそらす事もなく、寧ろ一瞬の光景も見逃したくないとでもいう風に凝視していた。
その体は震えていた。
だけどその目にあったのは怯えでは決してなかった。
その目に映し出されているのは、強い意志だ。
家族が殺された光景を見て少女は歪んだ。
純粋で無垢であった、愛されて育った少女の心に芽生えたのは心の歪みであった。
(お父様とお母様が死んだのは、甘かったからだ)
悲しむ気持ちは確かにあった。
だけど少女の心に最もあった思いはそれだった。
(弱かったから、強くなかったから、大切だったのになくなったのよ)
今、こんな事になっている理由はそうだと少女は思った。
(なら、私は―――××を作る)
それは少女だけが知る、その時芽生えた少女の目標。
決意をした少女は、震えていた体を抑え、隠し通路の方へと向かう。そしてそのまま少女は反乱軍に見つかる事なくラインガルを後にするのであった。