表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

『青春ラムネ』

 明るくない僕らの青春の少し明るい話です。

 赤点のペナルティとして生物室の掃除をする風切と、その手伝いをする鷹崎。鷹崎がお礼に欲しいものは海だという。それに対して風切は…。

『青春ラムネ』


「暑い……」

 鷹崎は箒を片手に額の汗を拭った。

「だよなー、クーラーとかあったらいいのにさー」

 風切は雑巾で机を拭きながら溜め息をついた。

 彼らがいるのは北校舎にある生物室。

「でも、生物の国本は色々楽だよな。赤点でも生物室の掃除でチャラにしてくれっし」

 風切は笑いながらそう言ったが、鷹崎は渋い顔。

「非合理的だ。赤点を取ったら勉学で取り戻させるべきだろう。掃除をしたらお前の成績が上がるのか?」

「う……」

 嫌味を言われている風切だが、文句は言えない。本来ならこのペナルティを課せられたのは風切一人。鷹崎は善意で手伝ってくれているのだ。

「そうだ、お礼に何か奢るぜ?」

 風切は話題を変えにかかる。

「別にいい。どうせ今月も楽じゃないんだろう?」

「大丈夫大丈夫、安いもんならさ」

「そうか」

「なんかある? 奢ってほしいもん」

 鷹崎は「ふむ」と考える仕草をする。

「海……」

「え?」

「海、だな」

「それ、奢るとかじゃなくね?」

 風切は笑いながら、窓から見える南校舎を見た。

「あれが無ければ見えるんだけどなー。後で行くか?」

「今日は無理だ、塾がある」

「じゃあ明日……、は、俺がバイトだった」

 鷹崎は溜め息をつく。

「たかだか三十分程度のところにあるというのに、手が届かないものだな」

 ――俺たちには、手の届かないものが多過ぎる。

 どれだけ勉強しても届かない一位の座。思うように成績が伸びない自分に、鷹崎はもどかしさを感じた。

「そうだ、ちょっと待ってろ」

 風切は何か思いついたように笑い、雑巾を机の上に放り投げ駆け出した。

「何だ?」

「奢ってやるよ、海!」


 風切は数分ほどで帰ってきた。

 その手にあるのは二本の……。

「ラムネ?」

 水色の瓶の中では小さな泡が踊っている。

「そ、学食に売ってたの思い出してさ」

 風切は一本を鷹崎に渡すと、窓際に引っ張っていった。

「これ、光にかざしてみ」

「あ、ああ……」

 言われた通り、鷹崎はラムネの瓶を太陽に向かってかざした。

 ゆらゆらと揺れる水色の中を、きらきらと光る気泡が通り過ぎていく。

 ――まるで、海だ……。

「結構綺麗だろ? 昔よくやったなー」

 風切は無邪気に笑う。つられたように、鷹崎も小さく笑った。

「ああ、綺麗だな」

 そして思う。

 ――こいつの手に届かないものなんて、ないんじゃないか……。

 そんな夏の、ある日のこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ