姉よ。 (3)
姉よ。
私はお前の行動の80%が理解出来ない。
部活から帰って、自分の部屋に荷物を置こうとした私は、机の上に見慣れない物が置いてあるのを見つけた。
〇じめの一歩。 それが1巻から40巻まで積まれて居た。
こんな事をする人物は一人しか心当たりが無い。
それにしても、私は、そんなにボクシング漫画が読みたそうな顔を毎日しているのかしら。
試しに一巻をぺらぺらと捲って読んでみる。
濃い。 絵が、濃ゆい。
私の普段読んで居る花○ゆめコミックスがミルクと砂糖が入ったアメリカンだとすれば、これは濃縮されたエスプレッソ。
砂糖をたっぷり入れないと飲めないわ。
「なー。 それおもしれーだろ。」
と、部屋の入り口に仁王立ちで立って居る姉から声を掛けられた。
「……読んでないわ。」
「えっ!? 読めよ!!」
「読めないわ。 なんで普段り○ん読んでる姉さんがこういう漫画をいきなり読み出すの。」
「クラスの男子が貸してくれたんだよ。 読んだら意外にいけるって。」
「そう。 まあそこまで言うなら気が進まないけど読むわ。」
「そうだそうだ。 そうしろー。 じゃ、500円な。」
「……は?」
「本のレンタル代。 500円。」
掌を上に向けて両手をくっ付け、くれ、くれ、と、上下させる姉。
〇ブリ映画にそんなキャラが居たような気がするわ。
「まだ読んでないから払えないわ。」
「え。 読むっつったじゃん。」
「無料なら読むわ。 有料なら読まないわ。 そもそも、それって、借りた男子の本じゃないの? なんで姉さんがお金取るのよ。」
「中間マージン。」
なんという事だ。 姉がちゃんと意味が合っている難しい言葉を使うなんて。
姉が無茶苦茶な論理を展開している事よりも、そっちの方に驚いてしまう私。
「違うわ。 タービンよ。」
「え? そうだっけ?」
「そうよ。 中間タービン。 蒸気を当てるとクルクル回る事から来てるの。」
「あ。 そっか! お前なんでも知ってんな!」
「たまたま知ってただけよ。」
「じゃあ、くれよ。 その中間タービン。」
「あげられないわ。 持ってないもの。」
「え?」
「え?」
だめだ。 ここで笑ってはいけない。
きょとん、とした姉の顔が面白すぎる。
「ごめんなさい。 私の勘違いだったわ。 タービンじゃなくカービンだったわ。」
「中間カービンか!! なんか強そうだな!!」
「ええ。 強いわ。 銃だもの。 人を殺せるもの。」
「え?」
「え?」
…………だ、だめだ。 もう……限界だ。
「ぷっ。 あははははは!! 何よ中間カービンって!! あははははは!! あは……は…………。 あれ? 姉さん?」
「いつもいつもそうやってバカにすんなよ!! 酷いじゃん!! タービンで合ってんだろ!?」
「……いや、ほんとはマージンで合ってるわ。」
「え!? なんだよ!! なんでそんな嘘付くんだよ!!」
「直美!! お姉ちゃんで遊ぶのはやめなさい!!」
階段の下から様子を見て居た母に見付かった。
目の前には涙目の姉。
もう中間マージンを取る事よりもバカにされた事の悔しさが勝っているようだ。
姉よ。
母には叱られたが、今回は私の勝ちだ。