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おじいちゃんの手

作者: ちよこれいと

皆さんが思い浮かべる祖父との思い出は何ですか?

ねぇ、おじいちゃん。


大人になった私を見てくれている?

そっちの世界では、目は見えているのかな?



幼稚園に通っていたとき、夜中に知らないところへ連れて行かれて。

おじいちゃんの写真の前で手を合わせたの。

その意味、今なら分かるよ。

みんな黒い服を着ていた。

みんな泣いていた。

何が悲しいのか、あの時の私は分からなかったけど。

でも今なら分かるよ。



小学生になって、友達が

「夏休みにおじいちゃんのお家に行くんだ!」

って

「田舎に帰るんだ!」

って

あの時はピンとこなかったな。

だって私のおじいちゃんはもういなかったから。



中学生になって、知ったよ。

おじいちゃんの目が悪かったこと。

だからいつも、ベッドに座っているおじいちゃんに

来た時と帰る時

握手してたんだね。

どうしていつも握手するのか、よくわかってなかったよ。

それから、聞いたよ。

私が産まれたときには、もう目が見えなかったって。

おねえちゃんが産まれたときは見えていたのに。

私の顔

見れず終いだったんだね。

なんだか悲しくなったよ。

なんだか寂しくなったよ。

「顔が見たい」って

口癖のように言ってたんだよね。



高校生になって、気が付いたよ。

おじいちゃんの顔を忘れてしまっていることを。

何度思い出そうとしても、無理なんだ。

パジャマ姿でベッドに座っている老人。

顔だけはどうしても空白で、思い出せない。

そもそも覚えていたのかさえ分からない。

おじいちゃんが私の顔を分からないように、

私もおじいちゃんの顔が分からないんだ。

同じだね。

あと、おじいちゃんと遊んだ記憶もないんだ。

多分、もう目が見えなくて、満足に歩くことも出来なかったから、仕方なかったのかもしれない。

会話はしたのかな?

笑ったりしたのかな?

大きくなるにつれて、忘れてしまっているのかな?

こんなこと言うの、変かもしれないけれど、

なんだかごめんね。



顔も、声も、全体の姿も、

話したことも、楽しかったことも

ろくに覚えてないけれど、

一つだけ忘れられないことがあるよ。


それはね。


おじいちゃんの手。


来た時と帰る時の、

あの握手の手。

あの感触だけは忘れない。

私よりもとっても大きくて、

しわしわだけれど、でも安心する手。


これだけは忘れないよ。


たとえ目が見えなくても、伝わったよ。

来た時の嬉しい気持ち

帰る時の寂しい気持ち

「また、来るね」って言ったときの安堵の気持ち

全部伝わっていたんだ。


今だから言えること。


あの時は分からなかった。


もっと、早く

もっと、早く

気づいていれば


こんな気持ちにならずに済んだのかな?


分からないけれど、でもね。

今はもう寂しくないよ。


ねぇ、おじいちゃん。


大人になった私を見ていてくれている?

そっちの世界では、目は見えているのかな?


読んで頂きありがとうごさいました。


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