青い月と喫茶店
聞こえてくるのは蝉の声とクーラーの起動している音…と、齢にして50代半ばであろう我らがゼミの教授の怒声のみである。このようになった経緯は、大したことはない。最初のうちははっきりとした輪郭のあるものだった教授の声がだんだんと催眠術に聞こえてきてしまい、それにかかってしまっただけであり、すべての非は自分たち三人にある。教授に恨みもないし、決して後に裏で彼の弱みを握りそれを使い仕返しをすべく作戦を思考するつもりもない。
ちらりと右隣を見てみれば、右にはとって貼り付けたような反省した表情を浮かべる目の細い金髪ストパー長身な男。
飯原 拓海が相槌を打ちながら教授の罵声を聞き流していた。
幼少からの幼馴染であり、こいつのことはよく知っている。飯原を一言で表せばクズである。
趣味はギャンブル、女遊び、自分とその周囲さえよければどんな悪行さえも冷たい目をした笑顔で行う。
しかし、友情だとか義理みたいなものに厚く何度かこいつに助けられたこともある。
そんな残念な親友である。
左には死んだ魚のような目で虚空を見つめる流行りのパーマをかけた長髪の女性。
五十嵐 友美が大きなあくびをしていた。
彼女もまた中高と一緒の学校の友人の一人である。彼女はいわゆる大学デビューというやつに近い。
高校までは決していわゆるリア充といわれる類のものではなかった。そんな彼女が大学入学ひと月前に
「私、輝くから。」
と、吐き捨てその翌日にどこで習ったのかはわからないが【ペガサスMIX盛り】なるものに髪型を変えた時は全地元住民が震えた。後に【二・二四天馬事件】と呼ばれ、かつ今もまだ語り継がれていることを彼女は知らない。
「この本を読んでそれについて4000字以上で論じること。必ず三つは文献を引用すること。なおWikipediaは使用不可とする。なお起源は来週のこの時間までだ。」
ふん、と鼻を鳴らしやってやったぜと言わんばかりの表情の教授。
きつすぎる、もうすぐテスト期間だというのにこれは・・。
「教授すいません、勘弁してもらえませんか?ついさいきん家族に不幸がありまして精神的にもつらいんです・・・。」
飯原が声を落とし囁くような声で目から涙を流し教授に訴える。もちろんこんなもの口八丁のでたらめである。俺の記憶が正しければこいつの家族はもうすでに50人近く不幸があったことになる、ビックダディも真っ青な子宝か。
「そ、そうか・・。気を落とさんでな、私も大人げなかった。課題はまぁ・・免除とする、ゆっくり休め。」
この教授ちょろすぎるだろ、そんなんだから奥さんにも逃げられるんじゃないのか。
そんな中、ふと大根役者を見てみると凄まじい醜悪な笑顔でこちらを見ていた、殴りたい。
「先生ー、うちも昨日両親死んだー!」
なんでこいつらは身内をこうも簡単に亡き者にできるんだろうか。
「よし、免除。」
なんでだ。
この流れは乗っかるしかないのだろうかと俺の中の悪魔がささやく・・・。
よし!
「教授!」




