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南瓜劇場  作者: 爽夏=sayaka=
抵抗勢力
8/18

2.とある男の決意

物陰に隠れてボガードの集団をやり過ごす事にする。

後ろから付けて来たと思われるボガードの集団は、目的の人物を見失い、通りをキョロキョロと探しながらも、二方向に分かれて走り去った。


(巻いたか?)


ホッと息を吐き、それでも周囲の警戒を怠らず、ボガード達とは反対方向に走る。

今日の会合は、喫茶店リリアパイという所だと連絡を貰った。

まだ新しい店らしく、当局の監視の目が届かない場所を見つけたと言われたので、店の監視については問題が無いらしい。

ただ、そこに着くまでに後を付けられては元も子もない。

自分をつけ回す尾行をまきながら、スピアは会合場所に急いだ。

指定された場所に着くと、とてもおしゃれで可愛らしい店で驚く。

貸し切りの札が入口に下げられ、扉を開けるとカランとベルが鳴った。


「いらっしゃいませ」


個性的な衣装に身を包んだ女性が出迎えてくれる。

スピアが予約したメンバーだと伝えると、にこやかにほほ笑んだ彼女は席に案内しようと動き出した。

彼女についていこうとしたスピアだったが、入口に立つ執事服姿の少女の顔を見て足を止めた。


「キミは……リリア?」

「如何にもリリア・U・フィロメントですが」


彼女は頷くと、どうして目の前の男が自分の名を知っているのだろうと不審な目でこちらを見る。

見る、見てるのだ。

昔、大怪我したせいで視力を失ったのではないかと思っていたが、失明はしなかったようだ。

化粧品で隠しているとはいえ、当時の傷は顔に残っており、こんな若い娘がと痛ましい表情を浮かべる。


「……何の話ですか? 手合わせなら怪我でもう出来ませんが?」


どうやら、彼女はスピアを覚えていないらしい。当時の状況を思い出しそれも無理はないと彼は苦笑した。

スピアがリリアを助けたと話をすると、彼女は驚いて目を丸くする。


「ずっと気になっていたんだ」


リリアの無事な姿を確認して、ホッと胸をなでおろしたスピアに、リリアは警戒心を解く気配も無く、硬い表情を崩さなかった。


「冒険者になったと風のうわさで聞いたが……」


更に話しかけようとするスピアの言葉を遮るように、小柄な少女が「お姉さま」とリリアに声を掛けて来た。


「仕事が溜まっております」


その言葉に、彼女は今仕事中なのだとスピアは気が付いた。

リリアと隣に立つ少女の二人に謝ると、何故か少女に睨みつけられたような気がする。

料理を出したり、飲み物を提供したりと給仕を務める三人。

スピアは、内輪の話があるからと言って彼女たちを遠ざけると、反乱軍についての現状とこれからの作戦について話出した。

それぞれが建設的意見を出し合って、蜂起について策を煮詰めて行く。

決行は一カ月以内にと結論を出し、話がひと段落すると、当局が嗅ぎ付ける前にとメンバーは店を出て行った。

スピアはリリアと話がしたいが為、店に残った。

仕事の邪魔になってしまうとも思ったが、ここで別れたら次にいつ会えるか分からない。

そう思って声を掛けてみれば、リリアはスピアが本当に自身の恩人かどうか計りかねているようだった。

旅の途中だった当時の状況を離して見れば、納得できる所が有ったらしい。

懐かしい気持ちで会話を続けていると、給仕の女性が「レッサーオーガに知り合いは?」と鋭い声をあげた。

スピアは唇を噛みしめた。


「すまない……どうやら後を付けられたようだ」


ココは自分に任せて逃げるように言うスピアに対し、店員たちはそれぞれ自分の得物を制服の陰から出してきた。


「理由はどうであれ、お客様を見殺しにできませんわ」


厨房から現れたガタイの良いオカマがテンペストを構えれば、給仕の女性はクスッと笑う。


「本日、貸し切りですので……ご新規様はお断りしてきますわ」


余りにも当たり前のように敵襲に備える姿を見て、デモンシティの現状を見た気がした。

一般市民まで、戦う事が当たり前の街。


(それがどれほど異常な事なのか、彼女たちは知っているのだろうか?)


機敏な動作で扉を開け、レッサーオーガ達に不意打ちを食らわせる四人。

その身のこなしは、一般人とはとても見えず、戦う事が出来る逸材だとスピアに示していた。


(彼女たちが仲間になれば……)


デモンシティを支配する魔神に対抗するため集まった反乱軍。

人族の為の街に作り変えるべく、蛮族を追い出さんと集まった自分たちには、教会が力を貸してくれている。

そとから応援を呼び、着々と人員が揃ってきている。

安心して生活できる街にするためにも、蛮族を掃討するのは必要なのだと言えば、彼女たちも分かってくれるだろう。

そう思いレッサーオーガ達を倒した後、リリアに話を持ちかけてみた。


「蛮族と人族が共存することは不可能なんだ」


朗々と告げるスピアに対し、リリアの答えは芳しい物では無かった。

眉根を寄せ、険しい顔になると「喧嘩に蛮族も人族も関係あらへん」と声を荒げた。

余りにも蛮族に対し夢を持ち過ぎているリリアに対し、スピアは現実を諭す。

現に今、レッサーオーガを倒したではないかと、荒れ狂う蛮族とは話し合う余地はないのだと告げると、首を振って「そんなことはない」と否定するリリア。

スピアは、頑なに共存を夢見るリリアに、最後の切り札を出した。


「リリア……その顔の、全身の傷は、蛮族の悪戯なんだ」


初めて知った事実にリリアの顔が驚愕に歪む。

スピアは話す。

悪戯な子鬼インジブルビーストがリリアを突き飛ばし、彼女の抱えていた数本の武器ごと崖の下に落としたということを。

スピアが助けに駆け寄った時には、身体中に武器を生やしたリリアがグッタリと崖下に横たわっていたのだ。

そして、今、ライア山脈の向こうに20万の蛮族が、こちらへと侵略してこようとしている。

そんな蛮族たちと共存できるものかと訴えるスピアに対し、それでもリリアは「友人の蛮族は、人族よりずっと優しくて良いヤツがおる」と共存への可能性を捨てようとしなかった。

すぐに考えを変えよと言うのは無理な話かとスピアは一息ついた。


「もし、本当にこの街が好きなら、連絡をくれ」


平和は肢体の上にしか築けない。それを理解できるほど大人では無い少女は、美しい理想にしがみ付いている。

スピアはそう感じると、「連絡を待っている」と一言告げ、店を出た。

彼は知らない。

スピアが出て行った店の中で、デモンシティの支配者が現れた事に。

支配者がリリアに、ドレイクエンペラーとの交渉を持ちかけた事に。

リリアは、愚直なまでに共存の道を探し続けている事に。

そして、共存を願っているのは、彼女だけではないと言う事に。

自分の真実だけを見ているスピアには、気付く事が出来ない。


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