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南瓜劇場  作者: 爽夏=sayaka=
抵抗勢力
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1.とある魔神の回想

1.とある魔神の回想


その日は朝から人が沢山並んでいた。

喫茶リリアパイの開店日。

ソレを祝うかのように空は青く澄み渡り、小鳥たちがさえずる。

喫茶店の売りはリリアパイ。

不思議な名称に首を傾げる客には、他の客からかぼちゃパイだと教えられる。教える客はある冒険者の宿でリリアパイを試食したのだと自慢げに言っていた。

しっとりした食感でサクッとした歯ごたえ、甘さは抑え目ながらも、パイの中の南瓜クリームが舌に乗れば、口の中でホロホロと溶けていく。

その感想を聞いた客たちは、ゴクリと唾を飲み込み、今か今かと開店の時間を待つ。

さて、その店内では、5mの巨漢にヤギの頭を持つ、青いワンピースに白いエプロンに身を包んだ魔神将ゲルダムが立っていた。

よく見るとその袖や裾にはフリルが施され、ふんわりと広がったスカートはひざ丈。角の間にある、ちょこんとフリルが縁取られた丸い帽子はワンピースと同布。

全体的な衣装を見ればカントリー調の愛らしいものだが、5mの巨漢のヤギ頭が着用すると違和感ばかりが募る。

そんな彼は、喫茶店リリアパイの店長エミ。

ウキウキと弾む足取りの彼は、従業員たちを呼び集めると、ぐるりと見回した。


最初に目を止めたのは、エルフのリリアとラルヴァのブロウ。

この二人とは、デモンシティにて不正を働いていた役人たちを懲らしめる為、仕事を依頼したのが縁で知り合った。

最初は、デモンシティの支配者の代理である委任の証(印籠)を託せる人物かどうか見極めるために、エミが試験を請け負った。

試験を行った倉庫の奥に、女の子が鎖に吊るされていた事も影響したのかもしれなかったが、ブロウは仲間を守るために無茶を承知で、リリアは仲間を見捨てられないと、圧倒的な力量の差があるエミに立ち向かって来たのだ。


「合格よ」


そう彼女たちに告げ、デモンシティの支配者が依頼内容を話す。

その際に、エミは自分の作った焼き菓子を紅茶に添えて差し出した。美味しそうに食べる彼女たちにエミは感激する。

今まで脂汗を流し、震えながら食べていた人間しか知らなかった。自分の作るスイーツは、恐怖におびえながら食すものなのかと、自信を失くしていたエミを歓喜させる。


「店でも開けるんちゃうか?」


その言葉に喜んだエミは、南瓜のパイをリリアパイと命名した。

そして気付いたのだ。自分が作っても、作ったのが自分だと分からなければいいのだ、と。

それが、今日の喫茶店の開店へとつながる。


リリアの隣には、人間の男の娘フランとパーフェクト(初期能力値マックス)なルーンフォークのフェイが並ぶ。

先週、彼らにも試験は受けてもらった。

リリアとブロウを鎖でぐるぐる巻きにして天井から吊るす。

もちろん、破れた服とケチャップで凄惨な状況を演出するのを忘れない。

そして、二人を吊るした倉庫へフランとフェイを招いた。

鎖で吊るされたリリアを見て顔色を変えるフラン。

ゲルダムであるエミとのレベル差を諸共せず、リリアだけを求めて蹴りを放つ。

無理だと分かってもなお、向かってくる姿は、とても好感を持てた。


(でも、アレはいただけなかったわ……)


エミは、彼を両手を掴み、高く持ち上げた。

逃げる事も出来ず、目の前に見える光景に絶望した彼は、涙や鼻水を流す。

流れたソレらはエミに飛んできて、地味に精神力を削られた。

次の瞬間、ツンと来る臭いが辺りに広がり、足元では温かな液体が水たまりを作る。


(正直、悲鳴をあげて捨てたかったわ)


流石にソレをすれば、彼の命はなかった。

自制した自分を褒めてあげたいと、エミはしみじみと思う。

エミがフランを掴み、頭上高く持ち上げたのを見て、フェイは冷静にエミの腕に鉛玉をぶち込んだ。


(捕まった仲間を救うために、腕めがけて銃を打つなんて、目の付けどころが良いわね)


残念ながら軽々とエミに避けられてしまったが、逃げる事なく立ち向かう姿は、凛々しいモノだった。

彼を目にして、そのパーフェクトな心臓はどんな味がするのだろうと、ドキドキする。

ソレを告げれば、人の事を変態を見るかのような眼差しで見て来たが、恐怖の眼差しよりは心地よかった。

まるで対等に見られているようで、ワクワクする。


フェイの隣に立つドレイクのレッドは、喫茶店の店員募集を出してすぐに面接に来た。どうやら、リリアパイの作り方が知りたいらしい。

花嫁修業という単語に、エミの心は躍った。

レッド女もエミの姿に恐怖で震える事なく、親しい友人の様に接してくれる。


彼らは知っているのだろうか?

自分が少し本気を出せば、たちまちボロ雑巾よりもひどい状態になると言う事を。

自分の勘気に触れれば、明日の太陽を拝めないと言う事を。


(気が付いてるわよね)


彼らは、冒険者だ。危険感知の能力に曇りがあっては、生きていけない荒事を生業とする。

それでも友情を示してくれていると言う事は、自分に気を許している事に他ならないと、エミは笑みを深くする。


「さぁ、今日は開店日よ~♪」


そう告げたエミは、自分の自信作に身を包んだ店員たちを見渡した。

エミと同じ青いワンピースと帽子に白いエプロンを着ているのは、厨房組みであるフェイとレッド。

試験の後、エミはスカートを履くのに邪魔なフェイの脛毛を処分した。

その際、フェイの中で何かが崩れ去り、ニヒルな青年からお嬢なオネエに変貌してしまったのには、全員が驚いた。

その変化にエミは「素敵よ」と無邪気に手を叩いた。


「ブロウ、リリア、フランは接客よ。可愛い魔女になって、リリアパイを運んでね」


ブロウとフランはエミ渾身の作である衣装に身を包んでいる。

接客ホール係の制服は白とオレンジと黒を配色した魔女のようなワンピース。

純白のブラウスにはフリルやレエスで飾りを付けて、南瓜色(パンプキンオレンジ)のベストには編み上げの装飾を施し愛らしく。

黒いミニスカートの下にベストと同色の南瓜色のパニエを履いて、裾にふんわりとしたボリュームを付ける。

首には黒のリボン(売薬済の印)。彼らの心臓は、魔神将である、自分が食べると言う証。

頭にかぶった黒い三角帽子には、明るい南瓜色のリボンを付けて、可愛い魔女となった彼女たちが、この店の顔になる。


「リリア、南瓜の被り物は禁止よ」


自前の執事服に身を包んだリリアが、南瓜の被り物に手を掛けるのを見て、エミは告げる。

彼女が顔の傷を気にして被っている南瓜は、かなり凶悪な形相で、一見しただけでは敵の親玉にしか見えない。それが可愛いと言っているリリアの美意識に疑問を感じつつも、客に怖がられては仕方ないと、エミは肩をすくめた。

リリアはエミの言葉を受けて、南瓜を控室に置くと、マジックコスメで顔の傷を隠す。


「さぁ、皆さん! 張り切って参りましょう」


フェイの言葉とともに、店はオープンした。

初日ということもあって、客の入りは上々。

リリアとブロウはクルクルとホールを動き回る。

そんなリリアをウットリと眺めるフラン。その姿にエミから注意の声が飛んだが、フランには聞こえていないようだった。

昔取った杵柄というのだろうか。ブロウの接客は完ぺきだった。そこはかとなく夜の雰囲気が醸し出されるのは気のせいではないだろう。

男装の麗人といった雰囲気のリリアの姿に、若い女性客から熱い眼差しが集まっていた。キリリとした雰囲気のリリアの姿に、固定客が付きそうだとエミはニンマリと笑った。

さて、厨房では、フェイとレッドが息のあった様子で作業していた。

一週間の特訓でエミの味を再現することのできるようなった二人に、死角はなかった。


(これなら大丈夫ね)


夜、店を貸し切って使いたいという客の要望に、店長代理としてフェイを対応させ、夜の仕切りを彼に任せる。

エミは、上品な店内で嬉しそうにスイーツを食べる客の表情を見て、今までにない満足感を覚えるのだった。


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