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南瓜劇場  作者: 爽夏=sayaka=
蜂起阻止
15/18

3.目の前に見えたもの

デモンシティは、魔法文明デュランディル時代に栄えていた都市だった。

当時に建設された巨大な建設物は、その後の魔動機文明アル・ネナス時代に改築され、現代まで脈々と受け継がれている。

それら建築物群の中に歌劇場オペラハウスと呼ばれる劇場も数多くあった。

その中に、本日の舞台である古びた劇場がある。

そこは、改築が進む周囲の劇場から取り残された寂れた建物で、立地も繁華街から外れた所に有り、彼らにとっては打ってつけの場所だったのだ

彼らが劇場に集結し出したのと同時刻。

デモンシティのあちこちで反乱軍が隠れ家に集合し、街の外でも反乱軍を支援する神殿の軍隊が密かに結集しだす。

反乱に加担した高位神官たちは、占領したデモンシティから蜜を吸い上げようと考えていた。

各軍隊を指揮しているのは彼らの息のかかった者たち。

軍のその構成を見てみれば、欲に目のくらんだ高位神官たちが独断で出した指示で集まったライア地方各地の神殿の神官や、冒険者として姿を変え外部から集まってきた神官。

中には、ライア山脈の中でも比較的低い山にある、獣道の様な旧街道を通ってきた猛者たちも存在した。

さて、それら反乱軍の中核メンバーたちは、現在、劇場の観客席で舞台に立つリーダー、スピアの演説を聞いている。

スピアの後方には、この反乱軍の指導的立場の男たちも揃っており、スピアの演説に合わせて、支配者からの解放を声高に叫んでいた。

それは気分が高揚した観客席の者たちをも巻き込んで、盛大なシュプレヒコールとなり劇場内に響き渡っていた。

そんな劇場内の様子を、舞台上から感慨深そうに見つめるスピア。


(やっと……ここまできた)


今夜の一斉蜂起でデモンシティは人族の手に戻って来るだろう。

蛮族を優遇する支配者を倒し、蛮族を追い出し、人族の為の都市にする。

自分たちはその為にココまで来たのだと、拳を握りしめた。


「デモンシティを我らの手に!」


力強いスピアの言葉に、観客席からの唱和が加わり、劇場が揺れる。

その時、舞台袖から悲鳴のような甲高い声が聞こえた。

劇場が一体となった声とは種を違えるソレに、スピアは怪訝そうに眉を潜める。

気になって振り向くと、そこにはリリアと仲間たちの姿があった。

途端に明るくなるスピアの表情。


「リリア来てくれたのか!」


自分たちを指示してくれるのだと、自分たちの理念に共感してくれたのだと、スピアは何の疑いも持たずに、観客席に座る同志たちに彼女たちを紹介した。

何故、教えたわけでもないのに、彼女たちがこの劇場に来たかなどは、考えもしなかった。


「おや、スピアの友人かね?」


同志であり、自分をここまで導いてくれた、反乱軍の立役者であるナミヘーが柔らかい笑みを浮かべて尋ねる。

スピアが彼女たちが心強い助っ人であることを告げると、キミの熱意が通じたのだと言うかのように強く頷いてくれた。

また一つ認められたのだと、胸を熱くさせるスピア。

舞台に出て来た少女にナミヘーは、人の良い笑みを浮かべ「お若い方は歓迎しますよ」とリリアに握手を求める。

ところが、リリアはナミヘーが差し出す手に目もくれず、ただナミヘーの顔をジッと見つめていた。

差し出した手の行き場が無くなり、笑みが硬くなるナミヘー。


「アンタにプレゼントがあるんや」


ポツリとリリアは告げる、とポケットからビー玉を取り出した。

そのビー玉を見た瞬間、何故か顔色が変わるナミヘー。

一連の流れが何処く行くのか分からず、スピアは二人を眺めることしかできなかった。

ナミヘーが何か言おうと口を開いた瞬間、彼の顔めがけてビー玉が投げられた。

その時の事を、スピアは忘れられない。

信頼していた人だった。

色々と知恵を授けてくれた人だった。

自分たちをココまで導いてくれた人だった―――

全ては過去形でしか言えない存在に変化していたのだ。

穏やかな表情を浮かべ、いつも笑顔を絶やさなかった好々爺だったナミヘーが、憤怒の表情を露にし、人間に似た、しかし、人間とは思えない様な姿に変化する。


「ぐぉらぁ! なにすんじゃぼけぇ!!」


ビー玉を弾き飛ばした男から発せられた、地獄の底から湧きあがって来るような恐ろしい声に、会場内がどよめく。

何処からか「蛮族がいる」と声が上がり、女神官だろうか、女性の悲鳴が響いた。

コロコロと舞台上を転がるビー玉に、忌々しそうに舌打ちしたソレは「ビー玉か」と吐き捨てた。


「なにが……どうなって、るんだ?」


スピアは視線を何処に向けていいか分からず、フラフラと彷徨わせ、蛮族の姿を見、昔自分が助けた少女の姿を見た。


「リリア……これは?」

「ウチはな……この街の支配者から貰ったビー玉に良く似た爆弾でな……蛮族軍を壊滅させたんや」


決して大きな声では無い静かな声。

けれど、言葉の持つ重みで劇場内がシンとなる。


「蛮族軍、壊滅? 支配者?」


全ての言葉が理解できず、スピアはボンヤリとリリアを見続けた。


「蛮族軍は……デモンシティに侵攻して……現在も進軍し続けていると……」

「あいつは、蛮族軍の生き残りや―――潜り込まれとったみたいやな」


リリアがナミヘーだった者を顎で示すと、彼女の後ろから来た青年が銃口を蛮族に向けながら現実を突き付けた。


「お前はあのハゲカツラの思惑にまんまと利用されてたってわけだ」

「そんなっ! ナミヘーさんは、私をココまで導いて……なんで、蛮族が人族の味方をするんだ?」


スピアが、混乱して助けを求めるように、自分が慕っていたナミヘーだった者に縋りつくような視線を送ると、せせら笑ってその男はスピアに言った。


「私は、この街を破壊する為に送りこまれた扇動者」


そこで言葉を切ると、リリアの後ろから姿を見せた女性に対して宣言する。


「ブロウ、おまえに不幸を運ぶものだ」

「私は不幸じゃないわ。不幸なのは、信じてた者が最初から裏切っていた、この子じゃなくて?」

「コイツなど、もうどうでもいい―――ココまで来たら、お前たちを殺すのみだ」


女性から告げられた言葉が、鋭い刃となってスピアの精神を傷付けた。

それ以上に、自分の事は眼中にないと言わんばかりの男の台詞に、スピアの自尊心は粉々に粉砕される。

自分が何を信じて、何をして行けばいいのか、全てが分からなくなり、ガックリと膝を付く。


「さて、スピア……この街の支配者の手先であるウチらと戦う? それとも、奴と?」


リリアの言葉に何も答えられなかった。

先程まで身に纏っていた高揚も興奮も消え去り、今残っているのは虚無感のみだったのだ。


「敵はジェイドバジリスクよ!」

「わーお」


ブロウと呼ばれた女の言葉に、リリアを守る様に前線に出た少女がペロリと唇を舐めた。


「お姉さまは私が守ります」

「無理せんでもえぇよ」


疲れたように告げたリリアの台詞にもめげることなく、少女は「私が守りたいんです」と幸せそうに答えた。

余りにも眩しすぎる言葉。

利用され、使い捨てられた自分に、そこまで寄り添ってくれる存在は居るのだろうかと考えるが、誰も思い浮かばなかった。

その事が更にスピアを追い詰める。


「役立たずには、もう用はない」


冷酷な台詞とともに鋭い一撃がスピアを遅い、スピアの身体は舞台の上を転がった。

呆然自失のスピアには、もう立ち上がる気力さえも残ってはいない。

ただ、目の前に繰り広げられる激闘を眺めることしかできなかった。


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