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家族  作者: 海陽
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後編

学校で友達も、親しいクラスメイトも居ない。天文部も部活とは言え、顧問が居るとは言え、たった一人。


俺が構ってやれてない家とは違い、学校では……賑やかに過ごしていると思っていたのに。


思うと言うより、俺の願望だった。そうであってほしい、っていう願いだったんだ。


家でも、学校でも一人で。部活もたった一人で過ごして、お前は……どんな気持ちで日を送っていた?


それを俺には一切漏らさずに。


透が屋上に居る、その事に瞬間、最悪の事が過ぎった。


校門の前に急停車させて飛び降りるが、鉄の柵は施錠されていて、本当に透が居るのか不安になる。柵をよじ登り、敷地内へと降りると校舎へ走り出した。


柵は施錠してあったのに、校舎の扉は一つだけ開いていた事に、居るのだと確信し、屋上への階段を探す。


「透……っ」


静寂が支配する廊下を、階段をフルスピードで駆け抜ける度、その静かさと寒さが身体に染みる。


透……お前は、いつもこんな風に感じていたのか?誰も居ない家で、たった一人で。


そして、屋上の扉を駆けて来た勢いのままに押し開けると、屋上の端に、制服の透が立っていた。


「父さん?!……どうしたのさ?伝言残して置いただろ」


久々に聞いた声は、一瞬驚き、すぐ淡白なものへと戻る。数ヶ月前の、プリントの事を聞いた時と同じ声音を。


透の腕には黒猫が何故か抱かれて居て、ゴロゴロと気持ち良さげに喉を鳴らしていた。


「顧問の先生から聞いたんだ、ここに居るって」


息子を見つけた安堵感と、自分の無力さと懇願と。縋る気持ちがごっちゃになって、俺は今、どんな表情なんだろうか。


「……俺が、お前が何も言って来ないことに甘えてたんだ。会話だっていつの間にか途絶えてたのも、知っていながら後回しにしてたから。お前が俺から距離を置く様になって、俺は父親らしい事も一つも出来てない」


「……」


「頼む。俺を、一人にしないでくれ。お前まで失ったら俺は……」


お前まで消えないでくれ、そう縋るかの様に漏れた俺の言葉に、淡々とした声が被さる。


「僕が、屋上から飛び降りるとでも思った?」


透から自殺の言葉が出てきたことに、衝撃で言葉も呼吸も失う。


「冗談だよ。……ここさ、良い観測場所なんだ。遮る物も無いし、一人だって事を忘れられる。仕方ないさ、父さんは仕事なんだから」


透は、部活だから観測に来ていた。その事に安堵すると同時に、ズキッと胸が痛む。


一人な事を忘れられる、と漏らす程に……こんな時になっても、俺を責めたりもしないなんて。


俺は、なんて声を掛けてやれば良い?父親なのに、何も思い浮かばない。


そんな時だったんだ。ずっと、透に抱かれ撫でられ、機嫌良さげだった野良の黒猫が俺へ、その緑に光る双眼を向けたのは。


そうしてあげた鳴き声は、明らかに俺への不満と怒りを含んでいた。


まさか、野良に叱られるとは思ってもみなかった。


「……お前じゃなく、野良に叱られるとは。駄目な父親だと言ってくれたら、どんなに楽なのに……お前は文句すら言わないのか。透」


開いていた距離を緩慢に縮め、透の目の前で足を止める。そして野良ごと、息子を抱き締めた。


「帰ろう透。星は家で、俺と観測しよう。明日はお前と一日過ごせるから」


やっと取れた、丸一日の休み。たった一日じゃ埋め合わせにもならないが、それでも、お前と一緒に過ごしたい。


今からでも遅くないよな?

まだ、俺に父親として居させてくれるか?透。


お前の事を、もっと知りたい。そのチャンスをくれ。


「お前も家においで」


透の腕に居る野良の頭を撫でる。俺が居ない時は、透の相手になってやって欲しいから。


学校の備品らしい小型の天体望遠鏡を抱え、透を振り返る。


神々しい光を降らす月と満天の星空を見上げた透。


黒猫の頭を撫でながら、屋上から踵を返すと俺に近付く。


「父さんは……天体観測の前に、少しでも炊事を何とかしてよ。あの皿、汚れが残ってた」


「うっ……。いや、でもだな」


「でもじゃない。僕が後から、一枚一枚皿を洗い直してるんだから。せめて皿洗いだけでもまともに出来るようになってよ」


そんな、久々の会話が出来ること、まだ俺に心を開いてくれる透に心から感謝し、俺達は家へと足を向けた。




fin.

妻と離婚し、唯一の息子まで失う……そんな恐怖に気付いた時、彼に改めて覚えたのは、息子への愛情と感謝。


絆を取り戻し、家族も一匹増えた彼の心情を、上手く伝えられたでしょうか。


その後の話も、そのうち、少し書いてみたいと思います。

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