今日のミートソースはいかが?
扉を開けば パンクロックの 響きあり
「ほーい、おかえりー」
男が、女の元に帰ってきた。
カラフルなシールでベタベタの扉を開くと、耳に突き刺さるパンクのサウンド、出迎えるのは所狭しと貼られたポスターのアーティスト達、そして鼻を突くのは濃厚なミートソースの香り。
男がシャワーを浴びてテーブルに着くと、目の前にドンと置かれたパスタの山。今日のレシピはスパゲッティー・ミートソース。缶ビールのオマケ付き。
「はぁ……」と男は溜め息を突く。そして、しみじみとフォークを手に取り、そのパスタの大皿に囁いた。
「久しぶりだな、お前。元気にしてたか」
「うっせい、昨日ぶりだってのに何云ってんだ」
もとい、パスタのレシピは、今日も、であった。
女は自分もビールを片手で、男に愚痴る。
「アタシの食卓で主菜、副菜にスープまで付いて来たら可笑しいだろ? そうして欲しいか?」
「いや、いい。このままミートソースを極めてくれ」
まあ、いろいろと料理の幅を広げられたら、台所は実験室に成りかねない。
男はクルクルとパスタを巻き取り、口にした。相変わらずの味わいであるようだ。顔を見ていればよく判る。
「お前、パスタ屋でも開くつもりかよ」
「多分、缶詰の方が旨いよ」
「なら、缶詰を食わせろよ……」
そんな男に、女は「エヘヘ」と笑いかけ、後ろから首根っこに絡みついた。
「お誕生日にはハンバーグを乗っけてやるよ」
「おう、旗も忘れんなよ」
ミートソースにハンバーグである。なんという挽き肉天国。
この際である。愛情もミートソースも、くどい方がいい。
(完)
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