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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔物が産まれる理由

 

 人によっては不快な表現、グロテスク、どう足掻いても絶望成分があります。



 苦手な方は【戻る】ボタンを押して逃げて下さい。



 感想は要りません。




 今日も俺の憂鬱な一日が始まる。



 季節は夏を前に異常に暑く、寝汗で張り付くパジャマ替わりのシャツを脱ぎ捨て、シャワーを浴びて昨日の残りの晩飯を朝飯として食べながらうだうだとする。



 学校に行きたくないのだ。


 ストレートに言うと俺はいじめと言うやつを延々と受けていた。


 小さい頃からデブで鈍臭かった、繰り返し罵倒と蔑みの視線に恐怖を刷り込まれた俺の髪は長く顔を覆う程に長い。髪質は悪くないけどね。



 事の始まりは確か小学生の頃で何が切っ掛けなのかは未だにわからない。


 今となっては何の意味も無い。


 暴力を受けたのは小さかった頃までで、内容は集団無視、汚物扱い、病原菌扱いになり、今は集団での威圧や誹謗中傷へと変わっていった。


 味方は見当たらない。


 実際の痛みも無い、何の事は無いと世間や先生方は言った。



 しまいにキレて暴れるのはいつも俺で問題児扱いはこちらになる、虐待歴六年の経過で俺は抵抗を止めた。


 黙って居れば嵐は通り過ぎる。



 悪い事に家は片親で経済的にも苦しく、弟は中学生、俺も巻き込まれて迷惑だと彼も言う。




 母は早朝からパート三昧でもうちょっとしっかりしてと泣いた。



 学も無く肥満で顔も良く無い俺は耐える方しか選べなかった。



 周辺に通えそうな高校はここしか無く、地元で育った子供達はほぼ例外無くこの学校に通う、そう言う事だ。



 隅で大人しく、喋らず、目を閉じていれば被害は最小限。



 まだ俺はやれる、まだ大丈夫。



 何度も心で唱えながら過ごす日々が続く。



 外は相変わらず暑い、殺意に恐怖が沸く。



 自殺と言う言葉がチラつく、生きるのも死ぬのも怖い。



 授業の声は頭上を通り過ぎて行くだけで意味は無い、休憩時間も眠ったフリをしている俺にぶつかって来た女子が転けない様に服を咄嗟に引く。




 気の迷い。



 助けてやったのに「デブ菌に触られた! 汚い、うつっちゃう」と泣き出した女に心が冷める。





 馬鹿を言うなよ、心臓が痛い。



 気の強い別の女が「謝りなさいよ!!」とか言っている。



 無視しようとした俺の襟首を強引に掴み引き上げる、柔道部の巨漢女の親指を掴み引き剥がすと解放された。テレビの武術特集を見ておいて良かった……なんて頭の片隅で思ったが、だからどうした?



 そして、何に対して謝れと!?



 無言で居る俺に次々と周りが同調して囲いを作り、口々に「謝れ」とか「消えろ」とか「死んじゃえ」とか言う、苛々するしもう帰りたい。



 布団が恋しい。




「ホント死んじゃえば良いのに!! あんたなんかに生きてる価値無いよ!」






 強気女の一言が俺の沸点を越えた。



 反射的に女の頬にビンタを一発かました。



 引っ張られ、中腰で力が入らなかったけど相手の頬は腫れてすらいない。しかし倒れ込んだせいで擦りむいたのか強気女も泣き出した。狭まる包囲の輪と罵声。人垣が黒々とした影にしか見えない。



「もう嫌だ」

「もう嫌だ」

「もう嫌だ」

「もう嫌だ」


「誰か助けて」




 心はずっと血を流している。


 心の傷は見えないし、精神的な傷は共感出来ない、どっかの偉い学者さんが言っていたフレーズが頭の中を駆け回る。



 誰かが呼んできたのか安っぽい扉を開く音で大人が来た事にすがる心が動く、担任が状況をざっと見て。



「何してんだ!」と輪の中に入ってきた、安心したのもつかの間。



 女の顔を叩いた俺が無条件で1番悪いと、話もそこそこで俺に詰め寄る爺担任。



 持っていた日誌で頭を叩かれ強制的に頭を下げられそうになった。



 納得出来ない俺は激しく抵抗、担任の叱責に抵抗する俺に逆ギレした強気女が机にあった鉛筆を引っ掴みギラついた視線で睨みながら俺の肩口に振り下ろして来た。




 ビビった所為で避けられずに刺さる鉛筆。



 故意にペン先を折り取る女に驚き、担任に頭まで下げさせられ解放された俺の精神はズタズタだった。



 もう何にも感じ無い。




 そのままゆったりと帰り支度をして、幽鬼の様に無言で帰る俺を誰も追いかけては来なかった。




 思えばこの時に俺は詰んでたのかもしれないと後になって思う。




 家に帰り着いた俺は部屋に鍵をかけベッドに倒れ込む、窓からはまだ青い空が見えた、けど心の堤防は決壊寸前で逃げる様に眠りに逃げ込んだ。





 目が覚めた時、一目で自分の置かれた状況がおかしい事に直ぐに気付いた。いつも気を張ってるからその辺は自信がある!



 じゃなくて、寝ていたベッドが無いしだだっ広い白いだけの空間が何処までも広がっていた。



 なんだこれ!?



 混乱する俺の手には見た事もないのにリアルだとわかったマグナムが握られていた。


 腕が痺れて感覚が無い、姿勢は寝込んだ時のままも横向き体制で地面に横たわってる。


 唐突にこれは夢だと思った。



 妙な確信。



 所謂、明晰夢ってやつか……思った俺はそのままの姿勢で自分の右足を徐に撃ち抜いた。



 反動で跳ね上がる右腕、そして激痛と言う名の猛烈な熱さ。





「ずぅあはぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!」




 抑え様も無い悲鳴が馬鹿みたいに漏れる。


 汗でヌメるマグナムをなんとか持ち直し、第二射を足に向け発射。


 全弾自らの足に撃ち込んだせいで両足は太ももから先を失い、夥しい血と肉片と骨が散乱して、酷い痛みで失禁と脱糞を両方してしまっていた。




 兎に角もう現実に帰りたく無かった。

 けど直ぐに後悔した。



 足を破壊したらこの空間に留まれるかもとか馬鹿か俺。


 寧ろ馬鹿だ……身じろぎだけで激痛、頭は痛いで埋め尽くされている。解放されたくて頭に向けたマグナムをカチカチしても弾は出ないし補充もされない。意味の無い叫びを漏らしながら這いずる俺はなんて滑稽なんだろう。



 狂った様に地面に頭突きをしたせいで額も割れ血塗れだ。



 のたうち回ってあちこちぶつけ、傷を増やし続ける。不思議な事にこんな惨状で暴れ狂っているのに出血多量で死ぬ事がない。



 いつの間にか砕けた地面の破片が肩やら腹やらに突き刺さり、ブチブチと筋繊維を引き裂き臓物を引きずり出す感触がする……吐いた。



 苛立ちで噛み付いたが、破片が今度は口を千切り食道やら気管を切り裂いて溢れた胃液が傷を焼く。



 頭の中も真っ赤でひたすら自傷を続け底を抜けた俺はどちゃっと水音をさせて落下した。




 また意識を手放したらしい。



 気が付いたけど事態は悪い方に転がった。



 今度は一切の光が無かった。



 地面の質感は石っぽくゴツゴツとして質感は最悪。



 耳が痛くなる静寂に満ちて。痛みをそのままに動かない体と異臭……ああ、本当に奴らの言っていた姿になったのか……。




 身動き出来ない状態でもう何日たったのか。



 空腹と渇き、孤独、無音。もうなんで生きてるのかわからない。



 絶望だけが迷い人を見ていた。




 無駄に俺はしぶとく生きていた。

 生きる意味は妄執。




 あれから何年経ったのかわかる筈もない。




 感覚なんかとっくに無いし多分、もう人間ですら無いと思う。最大で100kgを超えていた肉の感触も無く代わりに取り込んだ冷たい生物だった者の肉と闇を纏う。



 ここは墓場だ。



 少し前から俺に縁のある魂の波動が近づいているのを感じる。





 どうやって絶望を与えようか考えながら、名前を失くした堕ちた魂は弟を喰らう事になるだろう。













 悪意は連鎖する。














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