第九幕 生還のクランク・アップと、本当の地獄
『シネ七』もいよいよ佳境に入って来ました。サブタイトルの「〜本当の地獄」とは、編集作業のことです。
「カァットォ! 名演技だったぜ! これにて全撮影日程全て完了! みんな、お疲れ様!」
風画は両手を大きく振った。
撮影が始まってから四日、全てのシーンを順調に撮り終え、残る作業は編集のみであった。
「さあて、後は編集だけだ!」
役者が全て出っ払い、風画と槍牙だけになった体育館の真ん中で、風画は肩を回しながら言った。
「槍牙ぁ。最後の仕事だ。編集作業手伝ってくれ」
風画はくるりと振り返ってから言った。
「ああ、分かってる」
槍牙は大きくうなずいた。
「ん! じゃあ、よろしく! フィルムは全部俺の家に置いてある。今夜来れるか?」
「問題ない」
「しゃあ! 行くぜ槍牙ぁ!」
風画は大きくガッツポーズし、意気揚々と体育館から引き上げた。
風画と槍牙は、風画の自宅にいた。
「まずは飯だな」
風画はそう言って、いそいそと飯支度を始めた。
風画の母親は、風画がまだ幼いうちに亡くなり、父親はどこぞの企業の重役で毎日のように海外を飛び回っており、普段は家に風画一人なのである。
風画には兄と弟がいるが、兄は既に自立し、弟は数年前に親戚の家に養子という形で貰われている。
「槍牙。何喰いたい?」
風画は冷蔵庫を漁りながら言った。
「チャーハン」
「よしきた!」
風画は冷蔵庫から食材を取り出し、手早く調理に掛かった。
風画お手製のチャーハンは、ものの数分で完成した。
「さあ、食え」
風画はチャーハンをテーブルに運び、手のひらを上に向け両手の突き出した。
「でわ」
槍牙は軽く合掌してから、チャーハンに蓮華を突っ込んだ。
蓮華に収まったチャーハンをゆっくりと口まで運ぶ。
「どうよ?」
風画は槍牙に訊いた。
「うん。美味い」
槍牙はそう言うと、すぐさま二口目に入った。
「ところで、いきなり本題で悪いんだが、編集作業のことで相談がある」
風画は重々しく切り出した。
「……」
槍牙は風画の表情の変化を機敏に察知し、無言で蓮華を持つ手を休めた。
「編集作業のことなんだが、一筋縄で行きそうにない」
風画の視線は真っ直ぐに槍牙に注がれていた。
「と言うと」
槍牙は必要最低限口にした。
「これを見てくれ」
風画はそう言うと、黒いボストンバッグを取り出し、テーブルの上に置いた。
「今日までの撮影に使ったフィルムだ」
槍牙は黙ってフィルムの山を見ていた。
「これと、更にこれだ」
風画はそう言うと、今度の白い紙袋を取り出した。
「練習試合のテープか」
槍牙がそう言うと、風画は黙ってうなずいた。
「ここにあるフィルムとテープと切って貼って一つの映画にする」
二人とも黙りこみ、両者の間を沈黙が支配する。
「確かに、一筋縄では行きそうにないな」
沈黙を最初に破ったのは槍牙だった。
「今夜は長いぞ。ちなみに、フィルムの提出期限は明日の午後四時だ」
風画が言った。
「徹夜ということだな」
槍牙の一言。
「ああ」
風画の返事。
互いに互いを見つめあう。
直後、固い握手。
かくして、『少林バスケ』の制作は最終章へと突入した。
風画と槍牙は○モではありません。幼稚園時代からの親友です。ちなみに、風画の彼女は(知ってると思うけど)美奈です(この頃出番無いな〜)。