第八幕 逆三途渡り
五話くらいから、サブタイトルがいい加減になってきてますが、あまり気にしないで。
マンガと野球部によって新たな発想を得た風画は、翌日も撮影を始めた。
通常の部活を早めに切り上げ、残りの時間を撮影に充てる。
いつものように部員(役者)を整列させ、風画が皆の前で挨拶した。
「えー。今から皆さんに乱闘していただきます」
部員一同唖然としずっこける。
「お前はバ○ル・○ワ○ヤ○の北○武かー!!」
部員からの猛ツッコミ、そして何故か大ブーイング。
「待て待て、暴れる前に俺の話を聞け」
風画は皆を黙らせ、今回の撮影の旨を話した。
「……というわけだ。みんな、協力してくれ」
風画が会釈する。
「ま、良いよな、別に」
どうやら部員の理解は得られたようだ。
「よし。じゃあ、早速始めよう」
風画はそう言ってメガホンを手にした。
コートの中に部員が散らばり、風画の指示を待つ。
「うん、こんな感じだな。進矢は槍牙の手を踏み台にして、高く跳んでくれ」
風画がそう言うと、進矢と呼ばれた部員はこくりとうなずいた。
「見せ場だからな。カメラマンはコースを確認。迫力有る映像を頼む」
風画はそういって、各所に配置されたカメラマン全員に目で合図する。
「危険なシーンだから一発で撮りたい。みんなの協力が大事だ。しっかりやってくれ」
風画の呼びかけに皆が応じ、各々自由に返事をする。
「じゃあ、始めっぞ。テイクワン。用意、アクション!」
カチッ。
全三台のカメラが一斉に回る。
進矢が走り出した。
槍牙の手に踏み込む直前、味方のプレーヤーからのパスを受ける。
槍牙は片膝をつき、両手を重ねてタイミングを見計らう。その時の槍牙の姿勢は、レシーブをするバレーボール選手によく似ていた。
パスを受け取った進矢はそのまま着地。そして、踏み切りの一歩を槍牙の手に。
進矢の左足を受け取った槍牙は、進矢の踏み切りに合わせて両手を上に押し上げる。
進矢の体が空中にふわりと浮いた。
進矢の跳躍の直後、敵のディフェンダーが跳躍する。
「はあーーーー!」
進矢はディフェンダーの脳天目がけて強烈なダンクを放った。使用したボールはウレタン製なので、ディフェンダーへのダメージは殆ど無い。
衝撃を喰らいディフェンダーの顔が歪む。衝撃を吸収したウレタンのボールは、歪な形に変形した。
後ろ。横。正面。三台全てのカメラにその模様が克明に記録された。
ディフェンダーはそのままの姿勢で落下し、背中から地面に落ちる。落下の直後、あらかじめ口内に仕込んで置いたムースを吐き出し、あたかも泡を吹いたかのように見せる。
槍牙はカメラに写らないよう、器用に移動する。
倒れたディフェンダーに味方の選手が近付き介抱する。
「おい、大丈夫か」
ディフェンダーは動かない。
「てめえ、この野郎!!」
ディフェンダーの味方の選手が、進矢の胸倉を掴む。
(そうだ。そこで殴れ!)
台本通り、ディフェンダーの味方が、進矢の顔面を殴った(様に見えた)
「よし。カットォ。オッケーイ。ナイスナイスナイス! 皆さん名演技でした」
風画は頭上に両手で輪を作った。
「いいぞ。次は乱闘のシーン」
『少林バスケ』の撮影は佳境に入った。
伏せ字が多いですね、この作品。




