第六幕 追いかけてきた鬼
「発想を生かし切れていない」とのコメントを貰い、それについて色々と思案してみました。解決出来ていなかったらすみませんです、はい。
映画撮影は二度目に出港式を終え、新たな船出を迎えた。
「まずは役者とスタッフだな」
槍牙が言った。
「心配すんな。ちゃんと考えてある」
風画達は体育館に向かっていた。二人が体育館に到着すると、風画は勢いよく体育館の大戸を開け放つ。
「なるほど」
槍牙がぽつりとこぼす。
体育館の中にはバスケ部員が勢揃いしていた。
「みんな聞けーい」
風画の号令に部員全員が振り向く。
「お前等に協力して欲しいことがある」
風画はそう言って、映画作りの旨を話した。
「よ〜し。じゃあ、みんな! 気合い入れてはじめっぞぉ!」
『おおぉぉぉぉぉぉ!』
部員全員が鬨の声が上がる。
風画の権威と部員からの信頼の成せる技だった。
「よっしゃあ。そうと決まれば早速撮影準備だ!」
風画はそう言って重々しい撮影機材を運び初める。
「みんな、とりあえず撮影は明日の放課後から始めるから、うちのチームのユニフォームの上下を忘れないで」
重々しい機材を、体育館に併設された部室に運ぶ。
「しゃあ。とりあえず今日は部活すっぞ。気合い入れてけよー」
リーダーシップの有るものと無いものとでは、現場の雰囲気がかなり違ってくるものだ。役者の顔も自然と明るく見えてくる。
「槍牙。楽しくなりそうだな!」
風画が槍牙の肩を叩いて言った。
「ああ!」
槍牙は力強く答えた。
翌日の放課後、『少林バスケ』の撮影が開始された。
「まずは『ジャンプボール』のシーンからだ」
風画は昨日作った監督用の脚本を見ながら言った。
「槍牙。脚立とエバーマット」
風画が助監督の槍牙に指示した。槍牙は黙って従う。
そのおり、一人の部員からの物言い。
「ちょっと待って。ジャンプボールのシーンなのに、なんで脚立なんだ?」
風画はその部員の方を見て答えた。
「普通のジャンプボールじゃ面白くない。だから、今回は『跳ぶ』じゃなくて『飛び降りる』にする」
「えっ?」
部員が困惑してる間に、脚立とエバーマットの準備が整った。
「風画。準備完了だ」
「よし。撮影開始!」
カチッ。
カメラが回った。
キャッツウォークから放たれたボールが落ち始め、それに合わせて役者が脚立から飛び降りる。
「カァットォ! オーケー、オーケー。ナイスナイス! 良いのが撮れたよ」
風画は椅子から立ち上がり、コート中央のサークルに居並ぶ役者達に歩み寄る。
「よし! ジャンプボールのシーンは終了! 次は『ファイヤーダンク』のシーンだ!」
ダンクシュート。言わずと知れたバスケの醍醐味である。ボールをリングに叩きつけるようにして打ち込む豪快なシュートである。
風画はただでさえ豪快なダンクに『ファイヤー』という単語をくっつけた。
「このシーンは俺が出る。みんなは適当に散らばってくれ」
ユニフォーム姿の風画はそう言った後、手のひらで押しのける様なジェスチャーをする。
「槍牙。特製ボールの準備」
風画に指示された槍牙は、何やら意味ありげな物を取り出した。
「これは?」
部員の一人が意味ありげな物を指さし風画の方を見る。
「特製ボールさ。使えなくなったバレーボールに新聞紙を巻いて灯油を染みこませてある」
風画は特製ボールの説明をしながら、厚手の革手袋をはめた。
「槍牙。取り決め通りだ。頼むよ」
「了解」
見ると、槍牙も厚手の革手袋をはめている。
「気を付けろ。俺のシュートコースにいるとマジでやけどするぞ」
風画はそう言って、「どいて」と手で指示する。
「よし、安全確保。槍牙、火ぃ付けろ」
「点火完了」
槍牙は右手に持ったボールにライターで火を付ける。
「来い」
風画は走り出し、槍牙に手のひらを向ける。
直後、槍牙からのパスが通り火球が風画の掌中に収まる。
だんっ。右足で着地。
だんっ。左足で跳躍。
風画の体は重力に逆らい上昇し、風画と接するもの全てが虚空に躍り出る。
火球は火の粉を撒き散らしながら燃え続け、風画の腕の動きに従う。
「おりゃあ!」
風画は右腕を一八〇度回転させ、燃えたぎる火球をリングへと叩きつけた。
『おお〜』
「見事」の一語に尽きる豪快なダンク。現場に感嘆の声が漏れた。
「熱い、熱い。早く消化器を!」
風画は今だ燃え続けるボールを片手でお手玉しながら小刻みに跳ね回る。
ぶしゅ〜う〜〜〜。
槍牙が消化器の薬剤を風画に向けて放った。
もうもうと立ちこめる薬剤の霧の中から、全身真っ白になった風画が現れた。
「フィルムは!?」
真っ白になった風画はカメラの方を見た。
カメラの側には誰もいなかった。
「うそ……」
先程の見事なダンクはおじゃんになったようだ。
「もしかして……、取り直し……?」
風画は皆の方を見た。
こくこくと、槍牙が静かにそして残酷にうなずいた。
「よし、オッケー」
カメラが回ってないというハプニングに見舞われながらも、なんとかファイヤーダンクの撮影は成功した。真っ白になった風画と、風画の右手という名の犠牲の下に。
「よし。じゃあ次は、『威圧感あるアップ』のシーン」
風画はタオルで顔を拭きながら言った。
「とりあえず、全員整列して。五列ね、五列」
風画の体は白いままで、顔だけが普通の色合いだった。
「槍牙。お着替えタイム」
「うむ」
槍牙はそう言って、ステージ裏へと消えた。
「お着替え?」
部員が風画に質問する。
「ああ、特注の衣装が有るんだ」
風画がそう言うと、ステージ裏から槍牙が現れた。
「おおお……!?」
部員一同言葉を失う。
槍牙の出で立ちを簡潔に言い表すなら『禍々しい軍服』といった感じだった。
「風画。お前本気か?」
部員の一人が食ってかかる。
「問題ない問題ない。それに、アイツもアイツで乗り気だからな」
風画がそう言ったのを知ってか知らずか、風画の後に槍牙が重々しい声を出した。
「さあ。やるぞ!」
部員は呆然とした様子だった。
「な」
風画は部員の肩に手を乗せた。
「よし、良いのが撮れた。槍牙、名演技だったぞ」
収録テープのチェックをしていた風画は、コートの中の槍牙にOKサインを出した。
「よし、今日の撮影はここまで。みんな。明日もよろしくね」
「お疲れさまでしたー」
「お疲れー」
部員達がぞろぞろと部室へと向かう。
「槍牙、ちょっと」
風画が槍牙に手招きする。
「どうした」
未だ軍服姿の槍牙は風画に近付く。
「大変なことになった」
風画は重々しい口調で言った。
「どう大変なんだ」
槍牙が訊いた。
「派手シーンがもうない」
俯き加減に加えて消え入りそうな声で言う。
「なっ……。どうする気だ。派手シーンメインでやると言ったのは風画ではないか」
槍牙の語気は自然と強くなっていた。
「だからお前に相談してんだよ。何かアイデア無い?」
手のひらを合わせ、すがるような視線で槍牙を見る。
「う〜む。とりあえず部室に戻ろう」
槍牙はそう言って部室に向かう。
「あっ、おい。待てよ」
遅れを取った風画は、駆け足で槍牙の後を追った。
なんだか長いな〜。引っ張るだけ引っ張っといて尻すぼみってのは避けたいです。