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9/10

>ネギボウズ

「え、周防? 知らないなぁ」

「さっきグラウンドにいたけど」

「そういや庭園の方に歩いてったぜ」

 情報を頼りに庭園に!

「いた!」

「ん?」

「うん? 奈々君か」

 庭園の中心、小さな噴水のベンチで健と匠が何やらいじりながら会話していた。奈々は恐る恐る近づく。

「!? なに作ってんですか?」

「爆弾」

「……と、言いたい処だが花火だ」

 笑って言った健に心臓が飛び出るくらい驚いた奈々だが、匠の言葉でホーと胸をなで下ろす。

「花火?」

 奈々は怪訝な表情を浮かべて匠がいじっている物体を見つめた。紙で丸く形作られたくす玉のような形だが、大きさは直径1mほどもある。

 くす玉かと思ったが、足が1本生えていて無数の花火が突き刺さっていた。どちらかというとタンポポかネギボウズな見た目。

「なんですそれ……」

 奈々は匠の手にある機械に指を差した。

「起爆スイッチ」

 手に持っているゲームのコントローラーを示す。

「起爆……それが?」

「いじってある。起爆装置が入っているから予定よりも大きくなってしまった」

 匠は残念そうにネギボウズを見つめる。見た目ほどの中身じゃないんだ……奈々は少し安心した。

「でも……なんでこんなもの」

「頼まれたんだよ」

 健が笑って応える。

「夏らしく派手な花火が見たいと言われてね」

 匠が続けた。

「……」

 そんなもん市販の花火で済ませろよ……奈々は頼んだ奴を殴りたい気分になった。

「誰に頼まれたんですか?」

「同士一同」

 つまり同じ2年の人たちね……

「と言っても、寮にいる者しか見る事は出来んがね」

「寮の庭で上げるんだ」

「ちょっと待って……でもこの形、横にも飛ぶんじゃないの?」

 明るく発した健に奈々は制止するように軽く手を挙げた。敬語なんか使ってられない状況だ。

「大丈夫。横は吹き出し花火だから」と健。

「でも爆破とか言ってましたよね」

「例えだよ。爆破させる勢いの派手な花火っていう」

「本当ですかぁ~……?」

 どうもこの2人は信用できない。

「……」

 健と匠は奈々からゆっくりと視線を外す。

「……今、なんで目を逸らしたんです」

「仕方がない、奈々君にだけ教えてあげよう」

 匠はそう言ってネギボウズの斜め辺りに指を差した。

「この1本、私の特別製だ」

「特別製……?」

「他は市販品だけどね」

 2人の意味深な微笑みに奈々は少しゾクリとした。

「これ……どこに向かって飛ぶ計画なんですか?」

斗束とつかの部屋」

「! 斗束って生徒会長の?」

 斗束 耕平は匠たちとは同級生だ。もちろんこの花火計画は斗束だけには知らされていない。

「なんで教えてないんですか」

「反対するに決まってるからだろ」

「その腹いせに斗束先輩の部屋に花火飛ばすんじゃないでしょうね」

「我々はそんな心の狭い人間ではない」

 怒ってはいないが匠は淡々と発した。

「……」

 しっかしなんでこんなしゃべり方なんだろうな~この人。喋らなければ凄い格好いいのに……

『天才となんとかは紙一重』──奈々の脳裏に過ぎった言葉。人当たりが悪いわけじゃないし人付き合いも良好っぽい。嫌味な性格でもない。なのに……どこかがバカだ。

 これが周防 匠なのか……奈々は頭を抱えた。

「という訳で君も共犯ね」

「え……」

 健の声にハッとする。共犯?

「知っていて言わないのだ。立派な共犯だな」

「ちょ……ちょっと! 誰が言わないなんて……っ」

 焦る奈々に匠はその端正な顔を近づけて小さく笑った。

「!」

 奈々は心臓がドクンと高鳴る。

「言うと後が怖いよ」

「い゛っ!?」

 静かな声と微笑みに奈々は固まった。この人なら何をするか解らない……そんな恐怖がむくむくと盛り上がり血の気が引く。

「君も寮なんだろ?」

「え、はい」

 問いかけた健は返ってきた言葉にニッコリ笑った。爽やかな野球少年のように(野球部には所属していないが)。

「じゃあ、楽しみなよ」

「え……」

 2人は奈々に笑顔を向ける。彼女はその表情を呆然と眺めた。

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