>ネギボウズ
「え、周防? 知らないなぁ」
「さっきグラウンドにいたけど」
「そういや庭園の方に歩いてったぜ」
情報を頼りに庭園に!
「いた!」
「ん?」
「うん? 奈々君か」
庭園の中心、小さな噴水のベンチで健と匠が何やらいじりながら会話していた。奈々は恐る恐る近づく。
「!? なに作ってんですか?」
「爆弾」
「……と、言いたい処だが花火だ」
笑って言った健に心臓が飛び出るくらい驚いた奈々だが、匠の言葉でホーと胸をなで下ろす。
「花火?」
奈々は怪訝な表情を浮かべて匠がいじっている物体を見つめた。紙で丸く形作られたくす玉のような形だが、大きさは直径1mほどもある。
くす玉かと思ったが、足が1本生えていて無数の花火が突き刺さっていた。どちらかというとタンポポかネギボウズな見た目。
「なんですそれ……」
奈々は匠の手にある機械に指を差した。
「起爆スイッチ」
手に持っているゲームのコントローラーを示す。
「起爆……それが?」
「いじってある。起爆装置が入っているから予定よりも大きくなってしまった」
匠は残念そうにネギボウズを見つめる。見た目ほどの中身じゃないんだ……奈々は少し安心した。
「でも……なんでこんなもの」
「頼まれたんだよ」
健が笑って応える。
「夏らしく派手な花火が見たいと言われてね」
匠が続けた。
「……」
そんなもん市販の花火で済ませろよ……奈々は頼んだ奴を殴りたい気分になった。
「誰に頼まれたんですか?」
「同士一同」
つまり同じ2年の人たちね……
「と言っても、寮にいる者しか見る事は出来んがね」
「寮の庭で上げるんだ」
「ちょっと待って……でもこの形、横にも飛ぶんじゃないの?」
明るく発した健に奈々は制止するように軽く手を挙げた。敬語なんか使ってられない状況だ。
「大丈夫。横は吹き出し花火だから」と健。
「でも爆破とか言ってましたよね」
「例えだよ。爆破させる勢いの派手な花火っていう」
「本当ですかぁ~……?」
どうもこの2人は信用できない。
「……」
健と匠は奈々からゆっくりと視線を外す。
「……今、なんで目を逸らしたんです」
「仕方がない、奈々君にだけ教えてあげよう」
匠はそう言ってネギボウズの斜め辺りに指を差した。
「この1本、私の特別製だ」
「特別製……?」
「他は市販品だけどね」
2人の意味深な微笑みに奈々は少しゾクリとした。
「これ……どこに向かって飛ぶ計画なんですか?」
「斗束の部屋」
「! 斗束って生徒会長の?」
斗束 耕平は匠たちとは同級生だ。もちろんこの花火計画は斗束だけには知らされていない。
「なんで教えてないんですか」
「反対するに決まってるからだろ」
「その腹いせに斗束先輩の部屋に花火飛ばすんじゃないでしょうね」
「我々はそんな心の狭い人間ではない」
怒ってはいないが匠は淡々と発した。
「……」
しっかしなんでこんなしゃべり方なんだろうな~この人。喋らなければ凄い格好いいのに……
『天才となんとかは紙一重』──奈々の脳裏に過ぎった言葉。人当たりが悪いわけじゃないし人付き合いも良好っぽい。嫌味な性格でもない。なのに……どこかがバカだ。
これが周防 匠なのか……奈々は頭を抱えた。
「という訳で君も共犯ね」
「え……」
健の声にハッとする。共犯?
「知っていて言わないのだ。立派な共犯だな」
「ちょ……ちょっと! 誰が言わないなんて……っ」
焦る奈々に匠はその端正な顔を近づけて小さく笑った。
「!」
奈々は心臓がドクンと高鳴る。
「言うと後が怖いよ」
「い゛っ!?」
静かな声と微笑みに奈々は固まった。この人なら何をするか解らない……そんな恐怖がむくむくと盛り上がり血の気が引く。
「君も寮なんだろ?」
「え、はい」
問いかけた健は返ってきた言葉にニッコリ笑った。爽やかな野球少年のように(野球部には所属していないが)。
「じゃあ、楽しみなよ」
「え……」
2人は奈々に笑顔を向ける。彼女はその表情を呆然と眺めた。