>驚愕の事実
部室に戻った奈々は先輩たちに話を聞いた事を語った。
「あちゃ~バレちゃったのか」
3年の部員が頭を抱える。
「その成分を入れたのは誰だったんですか?」
「未だに誰かは解ってないんだ」
先輩は笑って椅子に腰を落とす。開き直ったようで、何でも訊いてくれと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
涼しい目をした3年2組の青木 大は新聞部の中でもムードメーカーと言ってもいい。
「みんなが追いかけ回すほど綺麗だったんですか?」
「そりゃあもう! あのまま外に出ても絶対、解らないぜ」
「くっ……写真があればいいのに」
それを聞いた奈々は悔しそうに舌打ちした。
「あるよ」
「えっ!?」
大はそう言って立ち上がり棚の奥から何やら怪しいファイルを取り出した。
「……なんですかそれ」
「ボツ原稿やらをファイリングしておく秘密のファイル」
そんなものがあったのか……初めて聞くファイルに奈々は唖然とした。そして気を取り直してめくられるファイルを眺める。
「! あった、これこれ」
「……ひゃ~」
差し出された写真に奈々は感嘆の声を上げた。
「あん時はまだ1年で背もそんな高くなかったし今よりも可愛かったからね」
大はすぐに写真を閉じてファイルを棚の奥に隠すように仕舞う。奈々は残念そうに見つめるが黒歴史を長く広げておきたくないのだろう。
「城島先輩はナイト役だったとか」
「あいつノリだけはいいからね。確かに強かったし」
健は中学の時から柔道の黒帯保持者だった。相手に怪我を負わせずになだめる術を持つ彼にはうってつけの役柄だったに違いない。
「でも……花火まで持ち出したんでしょう? しかも勝手に。それでよく何もなかったですよね」
「ま、学園側が呼んだ相手だしねぇ」
「そこまで不問にするほどの人とは思えませんけど……」
「あ、もしかして……あれがあいつの実力だと思ってる?」
大の言葉に奈々は眉をひそめた。
「IQ120以上じゃないんですか?」
確かにレベルは高いけど目を見張るほどって訳じゃないんじゃ?
「違うよ。多分だけど200超えてるんじゃないかな」
「!? はあっ?」
奈々は勢いよく椅子から立ち上がった。
「どういう事ですか……?」
「あいつ、真面目にIQテスト受けた事が無いらしいんだ」
まさに天才となんとかは紙一重ってね。と大が笑いながら肩をすくめた処で俊和がノートパソコンを抱えて部室に入ってきた。
「!」
部室の雰囲気に少し怪訝な表情を浮かべたが、いつもの自分の席に腰掛ける。奈々は目を据わらせて俊和を見つめニヤリと口角をつり上げた。
「お姫さまをさらえなかったんですね」
「!?」
俊和はビクッと体を強ばらせた。
「……」
ニヤけている奈々を見やり眉間にしわを寄せる。
「知ったのか……」
「はい」
俊和は溜息を長く吐き出し頭を抱えた。
「部長も昔はアクティブだったんですね」
「そういうレベルか!」
過去の失態にうなだれる。彼の一生の汚点となった事は言うまでも無かった。
「はぁ~忘れたい」
酔った(ようになる薬を飲んだ)挙げ句に男を追いかけるなんて!
「大体、あの2人だってジュースは飲んだハズなのに、なんで平気だったんだ」
「効き目にも個人差があるって言ってましたけど」
「匠の場合はコップ半分くらいだったかもしれない。しかし城島は何杯も飲んでたんだぞ」
「じゃあ、あの薬が効きにくい体質だったんだよ」と大。
「……なるほど」
なんとか納得しようとしている俊和を奈々は軽くのぞき込んだ。
「周防先輩と仲良いんですか?」
「! 何故だい?」
「だって、周防先輩の事は名前で呼んでいるので」
「そりゃまあ新聞部としては、ああいう人物は非常に助かるもん」
「!? 大!」
俊和は慌てて大を制止した。
「どういう事ですか?」
「知識豊富って事」
言いながら大はこめかみを右手の親指で示した。ギロリと睨み付ける俊和に「諦めろよ」という風に肩をすくめる。
「わざわざ調べなくて済む事が多くてさ」
「! ああ……なるほど」
俊和はあの件以来、匠とは仲が良かった。しかし汚点である事は事実。そのため、おおっぴらには仲が良いようには見せないでいた。
「……ささやかな抵抗ですね」
「ほっとけ!」