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>ナイト

 次の日──奈々は凝りもせず健を探した。

「! いた……あ」

 食堂で見つけたが今日は匠が隣にいる。奈々はさすがに本人の前では訊きづらかった。

「また今度に……お!」

 諦めかけたその時、匠が1人席を立ち食堂から出て行く。

「チャンス!」

 奈々は素早く健の前に立った。

「! あ、昨日の」

「あの続き、教えてくれませんか?」

「え、聞きたいの?」

 当り前でしょ……まだ前座じゃない。引きつった笑顔で奈々は頷いた。

「……」

「……」

 しばらく無言で向き合う2人。

「わかったわよ! おごればいいんでしょ!」

 業を煮やした奈々が財布を取り出し500円玉を机に叩きつけた。

「ちょっと!」

「何よ!」

 いつもニコニコしていた健が勢いよく立ち上がり声を張り上げる。奈々も負けじと声を荒げた。

「お金をそんな風に扱っちゃだめ!」

「へ……?」

 500円玉を取って奈々に見せながら健は言い聞かせるように口を開いた。

「これはお父さんやお母さんが稼いでくれたお金だよ! それを手荒に扱うなんて失礼だろ」

「……」

 ちょっと意外な言葉を彼から聞かされて奈々は少し反省した。しかしそれなら気前よくおごらせるな。と言いたい処だがそれとこれとは別の話らしい。

「なに食べようかな~」

 健はその500円玉を握りしめ鼻歌交じりで券売機に向かった。ぴったり500円の月見きつねうどんのボタンを押し食堂のおばさんに食券を手渡す。

「……」

 その一連の動作を見つめたあと奈々はがっくりと肩を落とした。

「本当にバカなんだ」

 年上に失礼な言葉をぼそりとつぶやいた。そして気を取り直して改めて健に質問する。

「昨日の話の続きを聞かせてください」

「ん~そんな大した事じゃないけどなぁ」

 大した事じゃないのならどうしてみんな口を閉ざす……奈々は呆れて騒がしい食堂の中で聞き漏らさないようにと聞き耳を立てた。

 健はうどんをすすりながら昨日の続きを話し始める。

「で、匠の場合さ~そのままでもキレーだろ? かつら被っただけでも美人になるのに女子の先輩たちが面白がって化粧までしてたもんだから、酔ってた連中が匠をナンパし出したんだよね」

「! ナンパ!?」

「匠はお姫様のコスプレしてたもんだからさ、もう似合っちゃって似合っちゃって」

「……」

 確かに……ガチで美女になってたかもしれない。奈々は想像を膨らませて顔が緩んだ。

「そのうちに匠を捕まえた奴が付き合えるっていう変なルールが出来てさ」

「……追いかける人も男子でしょ」

「うん、そう。女装してる男子が女装してる匠を追いかけたワケ」

 奈々は想像して「ゲェ~」と顔を歪める。健は油揚げをひと口でパクリとたいらげて続けた。

「まあ、その時に匠と仲良くなったんだけど」

「! へえ」

「俺、ちょうど女騎士の恰好してたから匠の守りに回ったのね」

「……へえ」

 初めからナイト的位置だったんか……奈々は薄笑いを浮かべる。

「もう凄かったよ~敷地内をあっち行ったりこっち行ったり。追いかけてくる奴らをことごとく投げ飛ばして、最後に残ったのは2人」

 うどんを口にほおばりながら左手で数を示す。

「……その2人って」

「えと、仲野先生と俊和」

 やっぱり体育教師と部長か!

「っていうか、先生まで何やってんですか」

「あん時はもうベロベロだったからね~」

 健がへらへらと笑う。しかし健の強さにも奈々は目を見張った。追いかけてくる男子たちを彼はことごとく投げ飛ばしていったのだ。感嘆する他はない。

「でもね、匠が途中でキレちゃってさ」

「え!? 周防先輩が?」

 奈々は驚いて少し腰を浮かせた。すると健は笑いながら左手を振る。

「あ~キレたって言っても解るようなキレ方じゃないよ。すげー無表情になるから」

「無表情……」

 なんか、そっちの方が怖くない?

「あいつさ~あっちこっちに仕掛けておいた爆弾のスイッチを押しちゃったんだよね」

「ばっ爆弾!?」

 再び驚く奈々に健はまたしても左手を軽く振る。

「爆弾って言っても花火だよ。大量の花火」

「……どうしてそんなものを仕掛けておいたんですか」

「余興にと思って勝手に設置したらしいよ」

 奈々は目を丸くした。新入生が勝手に設置……? なんたる度胸。

「それが予想以上に火薬量が多かったみたいでね。スイッチを押した途端にもの凄い爆音があっちこっちで起こってさ」

「それでよく退学にならなかったですね……」

「そりゃあ出来ないよ。匠を呼んだのは学園なんだもん」

「え!?」

「匠は中学の時から頭が良かったらしくてあちこちの学校からスカウトされてたんだって」

 そうして獲得に成功したのが尾世ヶ瀬学園。必死になって招待した学生をそう簡単に退学になど出来なかった。

「……もしかして、確信犯?」

 追い出せない事をいい事に彼は好き放題やっているのか?

「確信犯て何?」

 へろっとした顔で健が聞き返す。奈々は大きく溜息を吐き出しようやく解決した疑問にきりりと目をつり上げて立ち上がった。

「ありがとうございました」

 にっこりと健に笑いかけ学食をあとにする。

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