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>黒歴史

「! ああ……あたしの時は確か、お化け屋敷だった」

 季節外れのお化け屋敷を体育館で行い、それなりに親睦しんぼくは深まったのかもしれない。新しく入ってくる新入生を和ませようと2年と3年が話し合いイベントを繰り広げる。それがこの学園の恒例行事だった。

「俺たちの時は仮装パーティだったんだよ」

「へえ……」

 カツを口にほおばって健は続けた。

「男女が入れ替わるってやつでね。かなり凄い光景だった」

 全員が女装や男装をして体育館に集まり、先輩たちの激励の言葉を受けた後には乾杯の音頭を校長が取り入学式は終了する。予定だった──

「い……一体、何が起こったんですか?」

「ジュース飲んだ奴が酔っぱらっちゃったんだ」

「!? お酒だったんですか?」

 健はそれに左手を軽く振って笑う。

「違う違う。酔ったようになる成分を誰かがジュースに混ぜたの」

 そういうのにも効き目に個人差があって泥酔状態の生徒や先生が多数出た。

「……」

 奈々は少し考えて健に問いかける。

「もしかして体育の先生は……」

「あ~凄い酔ってたね」

 奈々は生ぬるい微笑みを浮かべると同時に、とんでもない光景を想像して青ざめた。確かに隠しておきたい事件かもしれない……言うなれば学園の黒歴史だ。

 その流れからいけば部長の鈴木俊和に何かがあった事は明らかである。聞きたいような聞きたくないような衝動に奈々はかられた。

「おっと、もうすぐお昼終わりだ。それじゃあ話はここまでね」

「え……?」

 明るく去っていく健の後ろ姿を奈々は呆然と見つめた。

「終わりって……」

 続きを聞きたきゃ、またおごれって!? 奈々は昼休みが間もなく終わりを告げるチャイムを耳にしながら引きつった笑顔を浮かべた。


「一番、聞きたい部分が聞けなかったじゃない」

 放課後、ぶつくさと独り言を吐き出しながら廊下を歩く。

「はぁ~……」

 季節によっては南側にある1年棟は早くに暗くなる。この季節はまだオレンジの日差しが建物の内部をわずかに照らしていた。

 それも1階まで降りると西棟の影が邪魔をしてしまうのだが下駄箱は学年に応じて分けられている。南棟には1年の下駄箱しか無い。

 因みに、東は2年棟で3年は北棟だ。西棟は部室と職員室、医務室などが集められている。十字型の建物のため、みんな中心でつながっていた。

「!」

 そんな奈々の前に、すらりとした立ち姿。周防 匠が1人で歩いていた。

「!」

 向こうも奈々に気付いたようでニコリと笑いかけてくる。その笑顔に腰砕けになりそうだったが、なんとか我を保ちペコリと軽く頭を下げた。

「!」

 近づいてくる匠に奈々は心臓がバクバクした。

「もう帰るの?」

「は、はい……今日は部活は休みです」

「ああ、そうか。じゃあ気をつけてね」

「ありがとうございます」

 後ろ姿を見送り奈々はハッ!? と気が付いた。

「本人から聞けるチャンスだったのに……」

 つい見惚れてしまった。奈々は残念そうに指を鳴らす振りをして靴を履き替えた。

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