>記者魂
「待ってください!」
奈々は必死で教師の背中を追いかける。
「先生! 廊下は走っちゃだめじゃなかったんですか!?」
「時と場合によるんだ!」
「待ってよ!」
新聞部の先輩たちから必死に(半ば脅迫まがいに)問い質して、ようやく体育教師が“例の件”に詳しいと聞いたのに……!
息切れした奈々は追いかけるのを断念した。悔し紛れにダン! と左足を踏み込む。
「一体、何があったっていうの?」
絶対に調べてやる。奈々の記者魂に火が付いた。肩までの髪を決意したようにポニーテールに束ねキリリと前を見据える。
「そうよ、知ってるのはもう1人いるわ」
「え? 健? さあ~」
奈々は2年5組を訪れて城島 健の行く先を訊ねた。教室を覗いてみたが健も匠も姿が見えない。
「ああ、あいつなら今日はバレー部の助っ人に入ったよ」
別の男子生徒が教えてくれた。
「あ、じゃあ……あの」
「匠?」
「はい」
「あいつは帰ったんじゃないか? 帰宅部だろ」
「え? そうなんですか?」
意外……生物部とか科学部とか入ってそうだったのに。
「あいつもたまにバスケ部の助っ人やってなかったか?」
「あー最近はやってないみたいだぜ」
「あいつの運動能力は異常だもんな」
「……」
気が付けば奈々の周りには匠の話をする男子生徒が集まっていた。みんな彼に興味があるのかしら……などと奈々は彼らの会話を聞きながら考える。
「でもよ、新聞部が匠に何の用なんだ?」
「えとですね……周防さんの事を記事にしようかと」
その言葉に教室の空気が一瞬、張り詰めた。
「止めた方がいいよ」
ぼそりと誰かが言った。それに全員が賛同するように頭を縦に振る。
「なんでですか?」
「あいつに関わるとロクな事が無いからだよ」
ロクな事がない? 見た処クラスの人たちからは人気あるようなのに……奈々は不思議で首をかしげた。
「俺たちはもう慣れたっていうか、免疫ついてるっていうかでさ」
「そうそう。ヘタに関わると痛い目見る奴もいるんだ」
痛い目……それって……
「うちの部長とか?」
「あ~あれは災難だったな」
「まあでも、あれは仕方ないんじゃね? 入学してすぐだったし。誰も免疫無いって」
「でも健だけはノリノリだったじゃん」
「あいつ頭無いもん」
エラい言われような健だが確かに成績は良くない。
「食い物ですぐに釣られるし」
「!」
食べ物……? 奈々はピクリと反応した。
「そうなんですか?」
さりげなく聞き返す。
「ああ、食べ物で釣れば大体の事は引き受けてくれるよ」
「ありがとうございます」
奈々は丁寧にお辞儀をして教室から出て行った。
「いいこと聞いた」
鼻歌がこぼれる。夕日が自分を褒めているように奈々には見えた。このまま諦めてたまるものですか!
教室に戻り帰り支度を終えて女子寮に向かった。南側の棟が1年棟。その1年7組が彼女の習う教室だ。
因みに男子寮と女子寮は隣り合わせに建てられていて学園から数十メートルの処にある。学園と寮をつなぐ道は学園の私有地だ。
門限は8時。寮長は寮生たちが1年に1回、投票を行い決定する。男子寮の寮長は生徒会長の斗束 耕平、女子寮の寮長は生徒会書記の伊藤 亜矢だ。
とにかく明日が勝負! 城島 健を見つけ出し例の方法で聞き出してみよう。