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>我ら尾世ヶ瀬学園、新聞部

 俊和は長机に乗せられている1枚の写真に目を落とし、軽くテーブルを叩いた。

「彼には近づくな」

「そんな彼女相手みたいなセリフ言わないでください。疑いますよ」

「気持ちの悪い事を平然と言うな」

「身長差からいけば部長が“受け”ですよね」

「……奈々くん。気持ちの悪い会話を続けないでくれたまえ。彼とは2㎝しか違わない」

 俊和は眉間にしわを寄せた。しかし、周りにいた女子新聞部員の数人が嬉しそうに話に花を咲かせる。

「いつも匠サマと一緒にいる健君なんて絶対、似合ってるよね~」

「そうそう、王子様と側近。みたいで」

「もちろん健君が“攻め”だよね~」

「……」

 俊和は二の句が継げなかった。女子というものはどうしてこうそんな話が好きなのか……呆れて何も言う気にはなれないが奈々が提案している事については反論する。

「とにかく! 奈々君の提案はボツだ」

「部長ヒドイ!」

 わざとらしく泣いた演技で部室を飛び出す。

「……まったく」

 俊和は肩をすくめてパイプイスに腰掛けノートパソコンをいじり始めた。1年の新聞部員がそんな俊和にぼそりと問いかける。

「どうしてダメなんですか?」

 他の1年部員も不思議がって頷いた。実は今回、新聞部は『生徒の1人を密着取材!』という記事で書こうとみんなで決めたのだが副部長の長谷川 奈々がよりにもよって学園いちの有名人である「周防すおう たくみにしたい」と言いだしたのだ。

 それを2年と3年の部員たちが猛反対。いつもは中間を提案する部長の俊和までもが今回は反対に回った。

「有名人には、そうなる理由があるんだ」

「……」

 1年部員たちは互いに顔を見合わせて首をかしげる。他の先輩部員たちも、皆一様に口をつぐんだ。これほどに反対される人物って……一体?


「もう! 部長のバカっ」

 奈々は廊下を歩きながら腕を組んで腹立たしげにつぶやき続けた。新聞部は現在、部員数15人。文化系の倶楽部にしては多い方だ。

 焦げ茶色の髪を乱暴にかき上げて放課後の学生食堂に足を踏み入れる。

「!」

 そこに、たった今揉めた人物が友人であろう男子生徒と白い長机のテーブル席に座っていた。

 オレンジの日差しが影を作っている校舎──整った顔立ちにその綺麗なオレンジの日差しが当たり奈々は思わず小さく溜息を漏らした。

 17歳、2年5組の周防すおう たくみは草色のブレザーを椅子の背もたれにかけ紺色のネクタイをゆるめて微笑んでいる。

 肩甲骨くらいまで伸びている後ろ髪を1つに束ねている姿は他の男子生徒なら「キモイ」と言われるだろうが彼ならば切れ長の瞳とすらりとした体を引き立てるのに充分、役立っていた。

「……」

 奈々は彼らの会話が気になってゆっくりと近づいていく。どうやら例の『側近』と一緒らしい。勝手に決められた主従関係の構図だが確かに想像としては合っている。

「だからー火薬は花火のを使えばいいんじゃない?」

「かき集めるのに一苦労だ」

 紙パックのジュースのストローをくわえて匠がつぶやく。向かいの席にいるのは城島きじま けん。快活な少年といった感じで茶色がかった髪をかき上げる。

 この2人、部活には入っていない。健の場合は試合の助っ人として存在しているため決まった部活には入れない。といった方が正しい。

 匠に至っては……彼を収められる教師も生徒も存在しない。そして1つの事に満足できない性格なのだ。

「……」

 火薬? なんの話をしてるんだろう。奈々は音をさせないように忍び寄る。

「爆破させるのにはかなりの火薬が必要だ」

「!? 爆破っ?」

 匠の言葉に奈々は思わず声を張り上げてしまった。口を両手で塞いで立っている奈々を2人は目を丸くして見つめる。

「えーと、誰だっけ?」

「1年生のようだね」

 怒ることもなく2人は奈々を見て会話を続けた。

「あっ、あたし長谷川 奈々。新聞部の副部長してます」

「そうなんだ~」

「ほう」

 関心を示すように奈々を見つめる匠。片肘をつき、その手に頭を乗せている仕草は上品で奈々は顔が緩んだ。

 どうして部長は彼の密着取材に反対するんだろう……そう思っていると匠がおもむろに口を開いた。

「俊和は元気かい?」

「え、部長を知ってるんですか?」

「私が入学した時に少し世話になった」

「あれ以来、避けられてるけどね~」

 健の言葉に、奈々はいぶかしげな表情を浮かべる。

「一体、何があったんですか?」

 不思議そうに見つめる奈々に匠はニコリと笑った。

「大した事じゃないよ。入学時にちょっとした揉め事があっただけ」

「そうそう。匠の争奪戦」

「争奪戦……?」

 ますます解らない。奈々は部室に戻る廊下で唸りながら歩いていた。


 部室に戻ると部長の俊和がノートパソコンと向き合っている。

「!」

 戻ってきた奈々を一瞥し作業を続けた。

「部長、彼の入学時に何があったんですか?」

「!?」

 その言葉に俊和は狼狽ろうばいしたのか、ノートパソコンのキーボードに乗りかかるように手をついた。

「な……なんの話だ」

 明らかに焦っている、慌てている……奈々はにじり寄るように俊和に近づき再び問いかける。

「彼と何があったんですか?」

「知らん! オレは知らないー!」

「わっ!? 部長!?」

 俊和は叫びながら部室から飛び出し、走り去った。

「……一体、何があったの?」

 奈々は呆然と、俊和が走り去った廊下を見つめた。

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