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>夜に咲く花

「結局あのまま何も言えなかったわ……」

 決行は今夜とか言ってたけど、どうしよう。奈々は寮に帰る道をトボトボと歩いていた。

「!」

 寮に帰るとみんななんだかそわそわしているように見える。と言っても2年と3年だけだが1年にはナイショにしているらしい。

「……」

 先輩たち楽しみにしてるんだ……奈々はみんなの顔を見つめた。

「共犯……でもいいや」

 奈々はつぶやいて庭が見える窓に目を向ける。決行は9時30分くらいって言ったよね……あと2時間以上ある。

「!」

 時間つぶしに食堂に来ると生徒会長の斗束 耕平が同級生と談笑していた。食堂は男女共同なのだ。

「……」

 奈々はなんとなくそれが計画的なものだと気が付いた。

 食堂のテレビを眺めてその時を待つ──9時20分。耕平と話していた連中が立ち上がり耕平を部屋に戻るようにし向けている。早くしないと計画が失敗しちゃうよ……奈々はドキドキした。

 耕平の部屋は2階のど真ん中だ。なるべく自然に、バレないように耕平の友達は歩いているが……奈々は気が気でない。

「!」

 なんだかんだで計画の成功を願っている自分に呆れて小さく笑った。

 彼らの後ろ姿を見つめる。男子寮までついていく訳にはいかないので背中を見送るしかない。


「なんだよおまえら……」

「いいから、いいから。もうすぐ半だしさ、部屋でゲームでもしようぜ」

「なんで半なら部屋でゲームなんだよ……」

「テレビも飽きたろ」

 3人のうちの1人は腕時計に視線を落とした。そして──

「今だ!」

「ドア開けろ!」

「!? 何し……っ」

「ドア閉めろ!」

 突然、部屋の前で1人に肩を掴まれ1人はドアを開き押し込まれるようにして部屋に詰め込まれると、ドアを閉められた。

「おいっ! なんだよ!?」

 耕平は閉められたドアに駆け込む。と、同時に──!

「スイッチ・オン」

 庭にいた匠がコントローラーのボタンをちょいと押した。

「わあー!」

「綺麗!」

 方々に広がる色とりどりの光。その中に1本、白い煙を吹きながら2階に向かって走る光が……

「! うわぁー!?」

 闇夜に響く叫び声。ゆっくりと耕平の部屋のドアを開くと紙吹雪にまみれた耕平が転がっていた。

「ぎゃはははは!」

「やったぜ! 匠」

「匠……?」

 放心状態で転がっていた耕平がピクリと腕を動かした。そしてガバッと立ち上がる。

「うお!?」

「立ち直りはええっ」

「これは匠の仕業か」

「あ、いや……依頼したのは俺たちだよ」

 そんな言葉も聞いてか聞かずか耕平は猛ダッシュで庭に向かった。

「速ぇ!」

「体育の時に発揮すればいいのに」


「匠!」

「お、耕平どうだった?」

 明るく言った健をギロリと睨み付け、匠に目を移す。

「どうだった? じゃない! なんて事をしてくれるんだ!」

「まあどうぞ」

「へ……」

 出されたのは線香花火。わらの芯で作っている関西のものだ。

「取り寄せてもらった」

「これ……」

 そうだ、前に友達と「関西の線香花火をしてみたい」って廊下で話していた。匠はそれを聞いていたのか……

「……」

 耕平はそれを1本、受け取りしゃがみ込んだ。匠と健も同じようにしゃがみ込んで耕平の線香花火に火を付けた。

 それは、風のない暗闇で綺麗に跳ねるようにパチパチと音を立てて咲く。

「……」

 耕平は黙ってそれをじっと見つめていた。


 END

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