Gの冒険
そのコロニーは、夏は暑く冬は寒いけれど、食べるものには困らず、水源も近くにあり、住むには都合の良い場所でした。
今年の春生まれた幼生たちも大きく育ち、独り立ちをする時期が来ていました。つがいを作るペアもちらほら出来ており、
一際体が大きいことが自慢の雄のゴブも、自分もそろそろ同じコロニーの雌のキリコに声をかけたいな、と考えておりました。
ゴブには、この所気になっているものがもうひとつありました。
自分が暮らすこのコロニー近くに最近出現した黒い丸い物体のことです。
近くを通るたびに、良い匂いがしてとても良いもののように感じられるのです。
きっと美味しい食べ物に違いない、取ってきたらキリコもゴブのことを素敵な雄だと見直すことでしょう。
つがいを作るパートナーになるためには、自分が有用な雄だと見せつける必要があります。
あの黒いのは、それを証明するためにぴったりではないでしょうか。
ゴブにはもうその考えしかありませんでした。
一方で、コロニー近くには、ゴブの100倍も大きいモンスターが出ます。モンスターは、1日の半分以上は現れないので、安全な時間に行けば全く問題はありません。
モンスターは動きがゆっくりなので、うっかりモンスターの前に出ていった仲間も、ほとんどは無事で帰ってこられます。
でも、安全に行けるならそれに越したことはありません。
「キリコちゃ〜ん、明日って暇〜?」
ゴブは、外面はちょっとチャラっとしてます、今時の若者なので。
「うむ、明日であるな。某、チャバと約束をしておる」
一方キリコちゃんは、武士に憧れて侍言葉です。侍言葉、これで良いのかな。あとチャバは同じコロニーの1番スマートな雄です。ゴブのライバル(一方通行)出現です。
「ナンダッテ!、、、や、めっちゃ美味いもん食べれるからさー!俺っち天国見せてやっから!!ちょっとだけ、な、ちょっとだけ時間ちょーだい!」
テンパってキャラ崩壊してますが、それどころじゃありません、ゴブ必死です。
「仕方あるまい、一服する間だけであるぞ」
なんとかキリコちゃんのオッケーを貰います。これはもう後には引けません。
さて、決行の時がやってきました。モンスターも時間が来て去りました。なんせ約束は明日なので今夜に賭けるしかありません。
何、何ということはありません、他の雄は興味ないのか気味悪がっているのか近寄っていないようですし、今がゴブのチャンスです。
一歩ずつ黒いのに近づいて行きます。
何ということもなく、到達しました。何ということでしょう、これではなんの起伏もなく冒険は終わってしまいそうです。
ともあれ何もないのはラッキー、そして、ゴブの思った通りとても良い匂いのとても美味しいものが入っていました。
とりあえず夢中でペロペロしてます、ゴブ、キリコちゃんに持って帰る分忘れそうな勢いです。
おっと、いけないいけない、かろうじて理性が戻ってきました。
お土産を持っていかないと、オンナは後が面倒だからな、とちょっと体面のイキリを思い出しつつキリコちゃんへのお土産を集めます。
さて、帰ろうかな、と思った時でした。
ゴブはなんだか初めて知った酩酊感のようなものを感じました。
(もしや、これがアルコールというものか?俺っち酔っ払ってる?)
こうなると、コロニーには戻れません。ちょっと、どこかで、休んでいかないと、、、。
ゴブは、近くの高台にある洞窟を目指すことにしました。あそこにはモンスターもほとんど入ってきませんし、安全そうです。うっかり寝てしまっても大丈夫でしょう。
最後は這うようにして、洞窟に辿り着きました。ここは食べ物はありませんが、暗くて狭くて落ち着きます。
「やべーな、約束の時間、キリコちゃん待っててくれっか、な、、」
そうしてゴブは気を失うように眠りに落ちました。
「ゴブ殿、遅いでござるな。仕方なし、チャバ殿を待たせるわけにもいかん」
キリコ、まだ10分過ぎただけですよ?あ、待たない。ゴブ、脈なしだったようです。
その後、、
キリコの知るところではありませんが、ゴブはその後、コロニーに帰ってくることはありませんでした。
この所、不慣れな若者が行方不明になったり突然死したりと不審なことが頻発しており、見慣れないものに警戒せよとの回覧板がコロニーに回っています。
さて、それではゴブの最後を見てみましょう。
ゴブは朦朧としていましたが、急に眩しい光を感じました。
(しまった、俺っちヘマしたみてーだ、、)騒がしい音、続いて、煙のようなものと、何かに包まれる感触。もうほとんどゴブの意識は消えかけていました。
(せめて、キリコちゃんにも食べさせてやりたかったぜ、、)それが、ゴブの最後の思考てした。
とあるレストランの事務所、
朝出勤した紘子は、電卓の電池が切れていることに気がつきました。
「あーもう、めんどくさいわあ」
電池を取ろうとストックの入った引き出しを開け、、発見。なんか、触角?茶色い、虫、、、「ギャッ」
アラフォーの紘子からはは、きゃあ!とか出てきません。
一回引き出しを閉め、そっとまた開けました。
「ゴキ、うぇーまじか。なんで引き出しなんかで死ぬの?まじありえん」
しかも、まだ微妙に生きてるみたいです。ビクビク動いている姿にもうひとつギャッと言いながら、ゴキジェット、二重手袋とポリ袋と手慣れた様子で片付けます。
なんか気が済まないので、同僚にも愚痴ります。もー、嫌ねえ、あんなところで死ななくてもねぇ。先月ブラックキャップ置いたからかしら。
退勤しても晩酌しながらぐちぐち調べます。ブラックキャップは、巣に戻って他の仲間に死体を食べさせて殺す効果もあったと知り、あのゴキは仲間は殺さなかったのか役立たずめと罵りながら第三のビールでクダを巻く紘子の姿。
おばさんですねえ。




