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第4話

 扉を抜けた瞬間、空気が変わる。


 重いわけじゃない。


 むしろ軽い。


 けれど、“普通”ではない荘厳さがあった。


 足元に広がるのは、雲のようでいて確かな

 感触を持つ白い大地。


 空はどこまでも澄んだ金色に近い青で、遠くには光の柱がいくつも立っている。


(……相変わらず、落ち着かない場所)


 ここは神界。


 神々が住まう領域であり、世界の法則そのものに最も近い場所。


 ユナは慣れているはずなのに、どうしても“場違い感”が拭えない。


「……行こう」


 視線の先には、ひときわ大きな建造物。


 神々の長――


 ゼウスとヘラが居住する神殿だ。


 ───────────────────


 歩きながら、さっきの光景を思い出す。


 熊川先輩の体を蝕んでいた魔力。


 異常な量。


 そして――属性がなかった灰色の大量の魔石。


(そんなこと、ありえる?)


 魔力には必ず性質がある。


 天、魔、あるいは神。


 どれにも属さない魔力なんて、聞いたことがない。


(……考えすぎ?)


 でも。


 あの灰色の魔石が、頭から離れない。


 ───────────────────


 神殿の扉が、音もなく開く。


「来たか、ユナ」


 低く、よく通る声。


 玉座のような席に腰掛けているのはゼウス。


 その隣には、静かにこちらを見つめるヘラの姿。


(……うぉぉぉ相変わらず圧がすごい)


「急に呼び出して申し訳ありません」


 軽く頭を下げる。


「構わぬ。それで、報告とはなんだ?」


「人間界で、異常事態が発生しました」


「異常、とな?」


「一般人――いえ、私の知人ですが、その人間に対して“外部から魔力が強制的に注入された”形跡があります」


 一瞬、空気が変わる。


 ゼウスの目がわずかに細くなる。


「……続けよ」


「注入量は異常。通常の人間なら即死していてもおかしくありません」

「だが生きている」

「はい。現在は神書界で保護しています」


 ヘラが静かに口を開く。


「よく対処できたわね。どうやったの?」

「魔力の排出と再同調を行いました。現時点では安定しています」

「……素晴らしいわ」


 小さく頷く。


「ただ――問題が一つ」

「申せ」

「その魔力が、“どの属性にも属していない”んです」


 沈黙。


 ほんの一瞬だけ。


 けれど、それは確かにあった。


「……測定器の故障ではないのか?」

「可能性は低いです。複数回確認しましたが、結果は同じでした」


 ヘラが目を細める。


「神の魔力ではないの?」


「それも違います。神の魔力特有の波長はありませんでした」

「……」


 再び沈黙。


(……?)


 今の間。


 ほんの僅かだけど――


(引っかかってる?)


「……現時点では、正体不明の魔力、としか言えません」


 ゼウスが腕を組む。


「ならば、無理に結論を出す必要はない」

「ですが――」

「焦るな」


 低く、重い声。


「分からぬものを分からぬまま扱うことも、時には必要だ」

「……はい」


(珍しいな)


 いつもならもう少し踏み込むはずなんだけどな。


「ところで、あの人間はどうするんだ?」

「放置はできません。あのままだと再発の可能性もありますし……」


 うちは少しだけ表情を引き締める。


「なので、一度“神書界”で経過観察を行いたいです」

「期間は?」

「とりあえず一週間程。その間に最低限の魔力操作を教えます」


 ヘラが静かに頷く。


「妥当ね。人間にしては例外的な状態だもの」

「ただし」


 ゼウスの声が低くなる。


「過度な干渉は許さん。あくまで“観察”だ」

「わかってますよ。暴走しない程度に、です」


 軽く肩をすくめるユナ。


「その後は?」

「週一で神書界に通わせます。魔力持ちの人間がどう扱われるか不明なので基本的には護身や回復などの魔術を教えます」

「……ふむ」


 ゼウスは一度、深く息を吐いた。


「よかろう。その方針でいけ」

「はい、了解です」


 ───────────────────


 めちゃくちゃ苦しい。


 何かに包まれている。


 見えない、ドロドロとした何かに。


 熱い。重い。息が詰まる。


 体の奥で、何かがうごめいている。


 自分のものじゃない何かが、無理やり押し込まれているような――


 そんな感覚だ。


 ここはどこだ。


 俺は……何を……。


『……先輩』


 声がする。


『さっさと起きないとマジで死にますよ?』

「……は?」


 目を開けた。


 視界に飛び込んできたのは、見慣れない

天井。


 やけに豪華な装飾。


 ふかふかすぎる天蓋付きベッド。


「……なんだこれ……」


 体を起こそうとした瞬間、


「っ……!」


 ズキン、と頭に痛みが走る。


 それだけじゃない。


 体の中が、妙にざわついている。


 血液の代わりに、何か別のものが流れているような違和感。


「……気持ち悪い……なんだこれ……」


 手を握ると、妙に力が入りすぎる。


 逆に、抜ける感覚もある。


 まるで――


「体の制御が、ズレてる……?」

「先輩、やっと起きました?」


 横から声がした。

 視線を変えると――


「……優奈?」

「正解です。おはようございます」


 いつも通りの軽い口調。


 だがこの状況でそれは逆に安心する。


「……ここはどこだ?」

「神書界にある聖堂の一室ですね」

「いや、どういうこと?」


 ツッコミが追いつかない。


「……てか俺、何があったんだ?」

「えーとですね____」


 優奈の説明は、正直理解が追いつかなかった。


 謎の存在に襲われたこと。


 魔力を無理やり注がれたこと。


 そして、自分が“魔力持ち”になったこと。


「……いやいやいや」


 思わず頭を抱える。


「ちょっと待て、情報量がおかしい」

「でも事実なんですよねこれが」

「夢じゃないのかこれ」

「夢だったらよかったですね〜」


 軽い。


 軽すぎる。


「……で、どれくらい寝てたんだ」

「今確認すると、人間界の時間で、翌日の17時23分です」

「……バイトが……」


 終わった。


 完全に終わった。


「大丈夫ですよ。なんとかしましたから」

「いや何をどうしたらそうなるんだよ」

「話はちょっと長くなりますが____」


────────────────────


 神界での話し合いを終えた私は、そのまま人間界へ戻った。


 場所は、あの高校の近く。


「んー……そろそろ終わる時間かな……あ、いた」


 優太くんと肥后くん。


 仲良く帰宅中。


 ……いいね青春。でも今日はダメである。


「ちょいといいかな?」

「何やってんだ、月田」

「ごめんって。優太くん、ちょっと借りていい?」

「僕ですか?」


 軽く事情をぼかしつつお願い。


 了承はゲット。


「ありがとーね」


 そのまま首根っこ掴んで――


「ちょ、もうちょっと優しく……!」

「はい移動ー」


 魔術陣展開。


 神書界へ強制転移。


────────────────────


「……で?何があったんですか?」


 理解が早い。助かる。


 私は熊川先輩の件を全部説明した。


「それ、親にどう説明するんですか」

「そこでこれです」


 魔石と人形を取り出す。


「……なんですか、これ。」

「影武者人形。完全再現型」

「……本当に大丈夫ですか?」

「昔これで暗殺回避した人いるし」

「不安になる情報なんですが」


 でも最終的には――


「……わかりましたよ」


 了承は得た。


 多分、完璧である。


────────────────────


「……というわけで」

「今は影武者が全部やってくれてます」

「……優秀すぎるだろ全員」

「でしょ?」


 ちょっとドヤ顔。


 なんかムカつく。


「……で?」

「で?」

「俺、これからどうなんの?」

「一週間程入院です」

「は?」

「その間、魔術講義します」

「……は???」


 意味がわからない。


「いや待て待て待て」

「なんでしょう?」

「なんで急に講義なんだよ」

「魔力持ちの人間になったからです」

「そんな軽い理由で人生変わる!?」

「変わりますね」


 即答。


「しかも魔術ってなんだよ!ファンタジーか!」

「今更ですか?魔術なかったら今頃、熊川先輩は死んでますよ」

「マジで???」

「大マジです。」


 頭が痛い。


 いや実際痛い。


「っ……」

「あぁ、まだ慣れてないだけですよ。魔力の違和感」

「これ慣れるのかよ……」

「慣れます。多分」

「多分って言ったな今」

「とりあえず今日は休んでください」

「明日から講義です」

「……逃げたら?」

「連れ戻します」

「ですよね」


 詰んだ。


「では、おやすみなさい」

「おやすみ……」


 再びベッドに沈む。


 柔らかい。


 妙に落ち着く。


 ――そういえば。


「このベッド……誰の……」


 聞こうとしたが、意識が先に落ちた。

 

後日、そのベットは優奈のベットだということを知るのは言うまでもない

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