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追放された無能農家、魔物と“理の農業”を始めたら世界の流通を支配してしまった件  作者: 慈架太子


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6話 初襲撃、戦わずに勝つ

6話:戦わずに勝つ


 ――来た。


 森の奥。


 気配が、近づいてくる。


 重い足音。

 複数の気配。

 そして――


 明確な“敵意”。


「……数は?」


 マルタが低く問う。


 俺は目を閉じる。


 耳じゃない。

 “感じる”。


「……人間、五」


「少ねぇな」


「でも」


 ゆっくりと目を開ける。


「全員、武装してるっす」


 鉄の匂い。

 殺意の匂い。


 明らかに、普通の旅人じゃない。


「……盗賊か、傭兵か」


 グレインが呟く。


「どっちにせよ、交渉は通じないタイプだ」


「なら簡単だ」


 マルタが拳を鳴らす。


「ぶっ飛ばす」


 その一言に、空気が震える。


 魔物たちも、低く唸る。


『やるか』

『排除する』

『守る』


 戦う気満々だ。


 でも――


「待ってください」


 俺は、一歩前に出る。


「俺がやるっす」


「……は?」


 マルタが眉をひそめる。


「お前、戦えねぇだろ」


「戦わないっす」


「は?」


 その反応、正しい。


 でも――


「だから、俺がやるっす」


 静かに言う。


 ハナが、ちらりとこちらを見る。


「……できるの?」


「やってみるっす」


 確証はない。


 でも――


 わかる。


 これは、できる。


「……好きにしな」


 マルタが肩をすくめる。


「危なくなったら、あたしが出る」


「お願いします」


 深く息を吸う。


 そして――


 前に出た。


 柵の外へ。


 魔物たちがざわつく。


『危ない』

『やめろ』

『殺される』


「大丈夫っす」


 振り返らずに言う。


「話すだけっす」


 そして。


 森の中から、五人の男が現れた。


 剣。斧。弓。


 明らかに、戦い慣れている。


「……おいおい」


 先頭の男が笑う。


「ガキが一人でお出迎えか?」


「どうもっす」


 軽く頭を下げる。


「ここ、私有地なんで」


「知るかよ」


 男が一歩前に出る。


「いいもん持ってんだろ? それ、全部置いてけ」


 やっぱりか。


「断ったら?」


「殺す」


 即答だった。


 迷いがない。


 慣れてる。


 ――でも。


「……そっすか」


 俺は、ゆっくりと周囲を見る。


 木々。

 草。

 そして――


 魔物たち。


 見えない位置に、いる。


 俺を見ている。


 俺の声を、待っている。


「なぁ」


 男たちに向き直る。


「一つ、聞いていいっすか?」


「あ?」


「なんで、襲うんすか?」


 男は、一瞬だけ眉をひそめて。


 すぐに笑った。


「楽だからだよ」


 その一言で、全部わかった。


 ああ――


 こいつら、もうダメだ。


「……そっすか」


 静かに呟く。


 そして。


 目を閉じた。


 “繋ぐ”。


 魔物たちと。


 意識を。


『……ペーター?』


「大丈夫っす」


 心の中で答える。


「ちょっと、借りるっす」


『……任せる』


 その一言で、全てが揃う。


 俺は、目を開けた。


 そして――


「じゃあ、終わりっすね」


「あ?」


 男たちが訝しむ。


 その瞬間。


 ――ざわり。


 空気が変わる。


「な、なんだ?」


 男の一人が振り向く。


 遅い。


 すでに、囲まれている。


 狼。

 鳥。

 地中の気配。


 すべてが、位置についている。


「動くな」


 俺が言う。


 静かに。


 でも、はっきりと。


 その声は――


 人間に向けたものじゃない。


 魔物に向けたものだ。


『了解』


 即答。


 次の瞬間。


 ――ピタリ。


 男たちの動きが止まる。


「なっ……!?」


 足元から、何かが絡みつく。


 蔓。


 地面から伸びたそれが、足を拘束する。


「なんだこれ!?」


 上から影。


 鳥型魔物が、武器を弾く。


 横から狼が飛び出し、喉元に牙を当てる。


「ひっ……!」


 一瞬で。


 完全制圧。


 戦闘時間――


 ゼロ。


「……え?」


 男たちは、理解できていない。


 当然だ。


 戦ってすらいない。


 なのに――


 負けている。


「……なんだよ、これ」


 先頭の男が震える。


 俺は、ゆっくりと近づく。


「言ったじゃないっすか」


 静かに言う。


「ここ、私有地なんで」


 見下ろす。


 もう、敵意はない。


 あるのは――恐怖だけ。


「奪うなら、守るだけっす」


 その一言で。


 全てが終わった。


「……殺さねぇのか」


 男が、震えながら言う。


「殺さないっす」


 即答。


「必要ないんで」


 振り返る。


「姐御」


「おう」


 マルタが出てくる。


「どうする?」


「追い返す」


「了解」


 男たちを軽々と担ぎ上げる。


「次来たらどうなるか、ちゃんと教えとけ」


「ああ」


 マルタが笑う。


「“もっとひどい”ってな」


 そのまま、森の奥へ放り投げる。


 数秒後。


 悲鳴が響いた。


 ……たぶん、生きてる。


「……終わったっすね」


 息を吐く。


 その瞬間。


『すげぇ!』

『勝った!』

『戦ってないのに!』


 魔物たちが、ざわめく。


 興奮。


 歓喜。


 そして――


 信頼。


「……やるじゃねぇか」


 マルタが笑う。


「完全勝利だな」


「戦ってないっすけどね」


「それがいい」


 ハナが、静かに言う。


「一番、強い」


 グレインは、呆然と立っていた。


「……信じられん」


 首を振る。


「これはもう、“農家”じゃない」


 ゆっくりと、言う。


「戦力だ」


 俺は、首を振る。


「違うっす」


 空を見上げる。


「牧場っす」


 風が吹く。


 魔物たちが、戻っていく。


 何事もなかったように。


 働きに。


 その光景を見て――


 グレインは、確信した。


 ここはもう。


 誰にも、奪えない。


 そして同時に。


 誰もが、欲しがる場所だと。

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