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追放された無能農家、魔物と“理の農業”を始めたら世界の流通を支配してしまった件  作者: 慈架太子


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4話 異常成長する牧場

4話:牧場、加速する


 ――三人、揃った。


 それだけで、世界はここまで変わるのか。


「……早すぎるっす」


 思わず、そう呟いた。


 目の前の光景が、信じられなかった。


 昨日まで荒れ地だった場所が。


 今はもう――


 “牧場”になっている。


 土は黒く、柔らかく。

 草は青く、濃く。

 魔物たちは落ち着き、互いに争うこともない。


『ここ、いい』

『落ち着く』

『腹減らない』


 魔物たちの声も、明らかに変わっていた。


 不安が消え、満足が増えている。


「当然だね」


 ハナが、土を軽く踏む。


「この土地、今は“育つ状態”だから」


「育つ状態……」


「放っておいても回復する。むしろ使えば使うほど良くなるよ」


 さらっと言うけど、意味がバグってる。


「それってつまり……」


「無限に畑作れるってことだろ?」


 マルタが笑う。


「やばいな、それ」


「やばいっすね」


 俺も笑うしかない。


 普通の農家なら、土地は“消耗するもの”だ。


 でもここは違う。


 使うほど良くなる。


 ――無限成長。


 その時だった。


『ペーター』


「ん?」


 灰狼が近づいてくる。


『群れ、増えてる』


「また!?」


 振り返る。


 森の奥。


 そこから、次々と魔物が現れていた。


 昨日より多い。明らかに。


「……マジで集客成功してるな」


『噂になってる』


「噂?」


『“飯があって安全な場所がある”って』


 魔物版口コミかよ。


「どうする?」


 マルタが腕を組む。


「受け入れるか?」


 一瞬、迷う。


 数が増えれば、管理も難しくなる。


 でも――


 すぐに答えは出た。


「……受け入れるっす」


 きっぱりと言う。


「働くなら、全員歓迎」


 その言葉に、魔物たちがざわめいた。


『働けば食える』

『いい場所だ』

『ここに住む』


 どんどん集まってくる。


 その様子を見て、マルタがにやりと笑った。


「いい判断だ」


「大丈夫なんすか?」


「大丈夫にするのが、あたしの役目だろ?」


 どん、と地面を踏む。


「お前ら!」


 その一声で、空気が締まる。


「新入りだ! ルールは一つ!」


 ぐるりと見渡す。


「働け。そしたら食わせる」


『おおおお!!』


「サボるやつは――」


 拳を握る。


「叩き出す」


 一瞬の静寂。


 そして――


『やる!!』

『働く!!』

『ここに住む!!』


 統率、完了。


「……すげぇ」


 改めて思う。


 この人、マジでやばい。


「じゃ、ペーター」


「はい!」


「仕事割り振れ」


「……俺っすか?」


「お前が頭だろ」


 当たり前のように言われる。


 胸が、少しだけ熱くなる。


 ――任された。


「……わかったっす」


 深呼吸する。


 魔物たちを見る。


 その一匹一匹の“声”が、聞こえる。


 得意なこと。

 苦手なこと。

 やりたいこと。


 全部、わかる。


「まず、力の強いやつは柵拡張!」


『任せろ!』


「土を掘れるやつは畑拡張!」


『やる!』


「飛べるやつは見張り!」


『了解!』


 指示を出すたびに、魔物たちが動く。


 迷いがない。


 無駄がない。


「……すげぇな」


 マルタが呟く。


「完璧に回ってる」


「魔物が“自分で動いてる”からね」


 ハナが頷く。


「普通の労働とは違うよ」


 確かに。


 これは命令じゃない。


 “意思の共有”だ。


 だから速い。


 だから強い。


 その結果――


 日が傾く頃には。


「……広すぎるだろ」


 俺は、呆然と立ち尽くしていた。


 牧場が、倍以上に広がっている。


 いや、倍じゃない。


 三倍、いやそれ以上。


 柵が整い、畑が並び、魔物たちが配置されている。


 完全に――


 “組織”になっていた。


「これ、1日っすよね?」


「1日だな」


 マルタが笑う。


「普通じゃねぇな」


「普通じゃないっすね……」


 その時だった。


 ふわり、と風が吹く。


 草の匂い。


 土の匂い。


 そして――


 甘い香り。


「……これ」


 振り返る。


 牛型魔物。


 その周囲に、草が青々と茂っている。


「食わせてみな」


 ハナが言う。


 俺は頷き、草を差し出す。


『……いい草だ』


 魔物が、ゆっくりと食べる。


 その瞬間。


 体が、わずかに光った。


「え?」


「変わるよ」


 ハナが言う。


「食うものが変われば、全部変わる」


 次の瞬間。


 とく、とく、とく。


 ミルクが、溢れ出した。


 昨日より、明らかに濃い。


 量も、多い。


 香りも――


「……やばい」


 思わず漏れる。


 これはもう、ただのミルクじゃない。


「飲んでみな」


 マルタが笑う。


 俺は、恐る恐る口に運ぶ。


 一口。


 その瞬間――


「っ!?」


 体が、軽くなる。


 疲れが、一気に消える。


 頭が冴える。


 力が、湧く。


「……なんすか、これ」


「いいだろ?」


 マルタが笑う。


「これは売れる」


 確信だった。


 いや――


 それどころじゃない。


「これ……」


 手の中のミルクを見る。


 白く、輝くそれは。


 ただの食べ物じゃない。


「……奪われるっすね」


 ぽつりと呟く。


 マルタが、にやりと笑った。


「来るだろうな」


 ハナも、静かに頷く。


「匂いが広がってる」


「匂い?」


「力の匂いだよ」


 ぞくり、とした。


 その時。


 遠く、森の奥で。


 何かが動いた気がした。


 気配。


 強い、視線。


 見られている。


「……来るっすね」


 静かに言う。


 マルタが笑う。


「いいねぇ」


 拳を鳴らす。


「退屈しなくて済む」


 ハナは、土に触れる。


「準備はできてる」


 俺は、ミルクを握る。


 確信する。


 これは――


 “世界を動かす力”だ。


 そして同時に。


 “争いの火種”でもある。


 夕日が沈む。


 牧場が、広がる。


 魔物が、増える。


 力が、溢れる。


 ――そして。


 静かに、確実に。


 世界が、こちらを見始めていた。

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