30話 ここで、生きていく
30話:ここで、生きていく
――朝。
静かだった。
「……来るっすね」
俺は、牧場の中央で呟いた。
風が止まっている。
空気が、張り詰めている。
「来るな」
マルタが笑う。
「最後だ」
「っすね」
頷く。
もう、わかっている。
これで終わる。
◇
――敵陣。
「……準備はいいな」
アルヴェルトが言う。
「はい」
ローディスが頷く。
「これで終わりです」
商人連合の代表も言う。
「すべて回収する」
その一言で。
全部が揃う。
「……行くぞ」
号令。
最後の進軍が始まる。
◇
「……来たっす」
俺は、前に出る。
もう、迷いはない。
「止める」
マルタが言う。
「支える」
ハナが言う。
「流す」
グレインが言う。
そして――
「回すっす」
俺が言う。
完全に。
揃っている。
「行くぞ!!」
敵が叫ぶ。
突撃。
最後の衝突。
――ドン。
空気が、弾ける。
でも――
「……止まるっす」
前線が、止まる。
完全に。
「押すっす」
俺が言う。
全体が動く。
でも――
「……違うっすね」
気づく。
今までと。
違う。
敵が、崩れない。
「……本気だな」
グレインが言う。
「全部、出してきてる」
「っすね」
頷く。
だから――
「こっちも全部っす」
目を閉じる。
繋ぐ。
さらに深く。
でも――
今回は違う。
「……全部、任せるっす」
小さく言う。
「何?」
マルタが聞く。
「信じるっす」
シンプルに言う。
その瞬間。
何かが、変わる。
「……いいねぇ」
マルタが笑う。
さらに強くなる。
「支える」
ハナが言う。
土が、さらに応える。
「流す」
グレインが言う。
流れが、変わる。
そして――
「回すっす」
俺は、全部を繋ぐ。
でも――
押しつけない。
任せる。
その瞬間。
完全に、噛み合った。
今まで以上に。
「……これが」
小さく呟く。
「完成っすね」
戦場が、変わる。
敵が、崩れ始める。
少しずつ。
でも――
確実に。
「……なぜだ」
ローディスが呟く。
「正義はこちらにあるはずだ」
「あるっすよ」
俺は、静かに言った。
「でも」
一歩前に出る。
「それだけじゃ、勝てないっす」
アルヴェルトが、目を細める。
「……何が違う」
「簡単っす」
笑う。
「ここ、俺たちの場所なんで」
その一言で。
全部、繋がる。
土。
魔物。
仲間。
全部が――
“意思”を持つ。
「……終わりっす」
俺が言う。
その瞬間。
全体が動く。
完全に。
そして――
崩れる。
敵が。
完全に。
静寂。
誰も動かない。
「……負けたか」
アルヴェルトが言う。
静かに。
「っすね」
俺は頷く。
「……取らないのか」
「取らないっす」
即答だった。
「なんでだ」
「必要ないんで」
シンプルに言う。
「ここで、やるんで」
沈黙。
そして――
アルヴェルトは、笑った。
「……そうか」
振り返る。
「撤退だ」
その一言で。
すべてが終わる。
敵が、去る。
静かに。
完全に。
風が吹く。
牧場が揺れる。
でも――
もう、違う。
「……終わったっすね」
俺は、息を吐いた。
マルタが笑う。
「勝ったな」
「っすね」
ハナが、土に触れる。
「落ち着いた」
グレインが言う。
「流れも戻る」
俺は、牧場を見る。
広がる土地。
魔物たち。
そして――
二人。
「……ここで」
小さく言う。
「生きていくっす」
風が吹く。
暖かい。
やっと――
静かになった。




