29話 限界の、その先へ
29話:限界の、その先へ
――戦場が、軋んでいる。
「……押してるっす」
俺は、息を整えながら言った。
前線。
確実に、押している。
敵の数はまだ多い。
でも――
流れは、こっちだ。
「いい感じじゃねぇか」
マルタが笑う。
拳を振るうたびに、前線が割れる。
「まだっす」
俺は、首を振る。
「終わってないっす」
「だな」
グレインが言う。
「本命はまだだ」
その瞬間。
――空気が、変わった。
「……来たっすね」
前線の奥。
道が、開く。
まるで――
避けている。
そこに。
いた。
「……遅い」
あの男。
そして――
その後ろ。
さらに三人。
同じ“格”。
「……増えてるっすね」
「本隊だな」
グレインが言う。
「これが、上位戦力」
ぞくり、とした。
でも――
「いいっす」
俺は、息を吐いた。
「全部出すっす」
◇
「……止める」
マルタが、一歩出る。
真正面。
四人に対して。
「一人で行く気か?」
男が言う。
「十分だ」
笑う。
その瞬間。
――ドン。
衝突。
空気が弾ける。
でも――
「……止めてる」
互角。
いや、それ以上。
「回すっす」
俺は、意識を広げる。
全体へ。
でも――
「……重い」
違う。
今までと。
負荷が違う。
「……来てるね」
ハナが言う。
「全部、来てる」
土が、震える。
支えきれている。
でも――
「長くは持たない」
「っすね」
頷く。
時間勝負。
「……押すっす」
俺は言う。
短く。
その瞬間。
全部、繋ぐ。
さらに深く。
「……行ける」
初めてだった。
このレベル。
でも――
「いけるっす」
言い切る。
「右、切る!」
『了解!』
「左、押し込め!」
蔓が、地面が、動く。
「前、固定!」
マルタが叩く。
――ドン。
敵が、止まる。
「……崩れる」
グレインが呟く。
その通りだ。
少しずつ。
確実に。
崩れている。
「……やるな」
男が言う。
マルタと打ち合いながら。
「だが――」
踏み込む。
さらに深く。
空気が、裂ける。
――ドン!!
「っ……!」
マルタが、一歩下がる。
初めて。
「……いいねぇ」
笑う。
「楽しい」
でも――
押されている。
「……まずいっすね」
俺は、歯を食いしばる。
バランスが、崩れる。
「……支える」
ハナが言う。
地面が、さらに固くなる。
でも――
「……限界近い」
「っすね」
時間がない。
「……やるっす」
俺は、決めた。
さらに繋ぐ。
もっと深く。
もっと強く。
「……やめろ」
グレインが言う。
「負荷が――」
「やるっす」
即答だった。
その瞬間。
――世界が、変わる。
全部、見える。
完全に。
「……これが」
小さく呟く。
「限界っすね」
でも――
超える。
「全部、動け」
その一言で。
戦場が、変わる。
魔物が、完全に同期する。
地面が、意志を持つ。
流れが、一つになる。
「……なんだ、これ」
敵が、動揺する。
「完全に……一つだ」
「……遅いっす」
俺は、静かに言った。
「今っす!」
その瞬間。
マルタが、踏み込む。
――ドン。
男を、弾く。
初めて。
明確に。
「……っ!」
男が、後退する。
「……いい」
笑う。
「いいな」
でも――
「ここまでだ」
一歩、下がる。
他の三人も。
同時に。
「……何っすか」
「今日はここまでだ」
静かに言う。
「十分、見た」
沈黙。
そして――
「次で、終わらせる」
その一言で。
すべてが決まる。
男たちは、引く。
戦場も、止まる。
静寂。
「……はぁ……」
力が抜ける。
立っているのが、やっとだ。
「……やりすぎだ」
グレインが言う。
「死ぬぞ」
「っすね」
苦笑する。
ハナが、支える。
「大丈夫?」
「なんとかっす」
マルタが笑う。
「いいじゃねぇか」
「押し返した」
「っすね」
頷く。
でも――
「次っすね」
「次だな」
全員が、理解している。
次が。
最後だ。
風が吹く。
戦場が静まる。
でも――
終わっていない。
あと、一歩。




