27話 裏で繋がる手
27話:裏で繋がる手
――最初は、違和感だった。
「……来てるっすね」
俺は、牧場の端で呟いた。
「何がだ?」
マルタが聞く。
「気配っす」
視線の先。
森の奥。
誰かがいる。
でも――
近づいてこない。
「敵か?」
「……違うっすね」
少しだけ考える。
そして。
「様子見っす」
◇
――夜。
火を落とした牧場。
静かに。
音もなく。
影が、一つ現れた。
「……止まれ」
俺は言う。
すぐに。
影が、止まる。
「……敵じゃない」
小さく言う。
そして。
フードを外した。
「……あんたは」
「久しぶりだな」
見覚えのある顔。
最初に契約した、あの商人だ。
「なんでここに」
「表じゃ来れない」
短く言う。
「見りゃわかるだろ」
「……っすね」
苦笑する。
周囲は、完全に敵だ。
「で?」
マルタが前に出る。
「何しに来た」
「取引だ」
即答だった。
「まだやる気か?」
「むしろ今だ」
目が、真剣だ。
「今?」
「崩れてる」
短く言う。
「中が」
グレインが、少しだけ笑う。
「……早いな」
「早いさ」
頷く。
「欲は抑えきれない」
その一言で、全部繋がる。
「……どれくらいっすか」
「かなりだ」
「ギルドも?」
「特にギルドだ」
苦笑する。
「取り締まる側が、一番やってる」
「……最悪っすね」
「最高だろ?」
にやりと笑う。
確かに。
「で、何が欲しいっすか」
「ミルクだ」
当然の答え。
「ただし」
一拍置く。
「裏で」
沈黙。
「……リスク高いっすよ」
「知ってる」
即答だった。
「でも、それ以上に儲かる」
まっすぐな目。
嘘はない。
「……どうする」
マルタが聞く。
「やるか?」
少しだけ、考える。
そして――
「やるっす」
頷いた。
「ただし」
商人を見る。
「選ぶっす」
「……だろうな」
笑う。
「だから来た」
なるほど。
最初から、わかっている。
「条件は?」
「変わらないっす」
シンプルに言う。
「価格、流通、全部こっち」
「いい」
即答だった。
「それでいい」
沈黙。
そして――
「成立っす」
手を差し出す。
握る。
その瞬間。
流れが、変わった。
◇
――翌日。
「……増えてるっすね」
俺は、呟いた。
気配。
一つじゃない。
二つ。
三つ。
さらに――
「……来るな」
グレインが言う。
「次々と」
夜になる。
また一人。
また一人。
現れる。
「俺も乗る」
「条件は?」
「全部飲む」
短い会話。
でも――
十分だ。
「……面白いっすね」
俺は、少しだけ笑った。
昨日まで、ゼロだった。
それが――
増えている。
裏で。
確実に。
「流れが戻ってる」
ハナが、静かに言う。
「うん」
頷く。
「見える」
土に触れる。
「繋がってる」
その言葉に。
俺も、少しだけ息を吐く。
「……戻ってきたっすね」
「いや」
グレインが言う。
「ここからだ」
「ここから?」
「まだ“裏”だ」
指を立てる。
「これを表に出す」
ぞくり、とした。
「……一気にっすね」
「一気だ」
マルタが笑う。
「派手にやろうぜ」
「やるっす」
頷く。
もう、迷いはない。
その時。
「……増えた」
ハナが言う。
「何がっすか?」
「人」
遠くを見る。
「外」
視線の先。
牧場の外。
影。
でも――
今度は違う。
敵じゃない。
“待ってる”。
「……来てるっすね」
小さく呟く。
欲が。
流れが。
全部。
「……準備、できてるっす」
俺は、前に出る。
風が吹く。
牧場が揺れる。
でも――
今度は違う。
追い風だ。




