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追放された無能農家、魔物と“理の農業”を始めたら世界の流通を支配してしまった件  作者: 慈架太子


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25話 それでも、ここに立つ

25話:それでも、ここに立つ


 ――静かだ。


「……来ないっすね」


 俺は、牧場の入口で呟いた。


 誰も。


 商人も、客も。


 もう、来ない。


「完全に止まったな」


 グレインが言う。


「っすね」


 頷く。


 流通は、ゼロ。


 出せない。

 売れない。

 広がらない。


 それでも――


 ミルクは、できる。


 作れる。


 だからこそ。


「……余ってるっすね」


 倉庫を見る。


 積まれた容器。


 白い液体。


 価値はあるのに。


 誰にも届かない。


「もったいねぇな」


 マルタが笑う。


「飲むか?」


「飲める量じゃないっす」


 苦笑する。


 ハナが、土に触れながら言う。


「……静かだね」


「っすね」


「でも」


 一拍置く。


「重い」


 その言葉が、胸に刺さる。


 外の圧。


 見えないけど、確実にある。


 ◇


 ――三日後。


「……さらに減ったな」


 グレインが言う。


 魔物の数。


 少しずつ。


「逃げてるっすね」


「恐れてる」


 頷く。


 環境はいい。


 でも――


 “圧”がある。


 それを、本能で感じている。


『……怖い』

『来る』

『大きい』


 声が、弱い。


 今までと違う。


「……仕方ねぇ」


 マルタが言う。


「来る前にビビるやつもいる」


「っすね」


 でも。


 これは――


 効いてる。


 確実に。


 ◇


「……減らすっす」


 俺は言った。


「何をだ?」


 グレインが聞く。


「生産」


「……本気か?」


「はい」


 頷く。


「余ってるんで」


 ハナが、少しだけ驚く。


「止めるの?」


「調整っす」


 シンプルに言う。


「無理に作っても意味ないっす」


 沈黙。


 そして――


「……正しい」


 グレインが頷く。


「冷静だな」


「っすか?」


「普通は焦る」


「焦ってるっすよ」


 苦笑する。


 でも。


「無駄はやらないっす」


 それだけだ。


 ◇


 ――夜。


 風が強い。


 冷たい。


「……静かっすね」


 俺は、牧場の真ん中で呟いた。


 誰もいない。


 魔物も、少ない。


 音も、ない。


 完全に――


 “孤立”。


「……っ」


 胸が、少しだけ締まる。


 今まで。


 ずっと、誰かがいた。


 マルタ。

 ハナ。

 魔物たち。

 商人。


 でも――


 外は、全部敵。


「……それでも」


 小さく言う。


 足元の土に触れる。


 温かい。


 ハナの力。


 確かにある。


「……ここ、いい場所っす」


 ぽつりと呟く。


 風が吹く。


 牧場が揺れる。


 でも――


 嫌じゃない。


「……守るっす」


 静かに言う。


 誰に聞かせるでもなく。


 ただ――


 自分に。


「折れねぇな」


 声がした。


 振り向く。


 マルタだ。


「見てたんすか」


「まあな」


 隣に来る。


「普通なら、逃げてる」


「逃げないっす」


「なんでだ」


 少しだけ考えて。


 そして――


「好きなんで」


 シンプルに言う。


「ここが」


 沈黙。


 マルタが、笑う。


「いい理由だ」


 その時。


 ハナも来た。


 静かに。


「……大丈夫」


 短く言う。


「何がっすか?」


「全部」


 土に触れる。


「支えてる」


 その一言で。


 少しだけ、楽になる。


 グレインも、後ろから言う。


「流れは死んでない」


「……っすか?」


「表に出てないだけだ」


 目を細める。


「裏で、動いてる」


「じゃあ」


 俺は、息を吸う。


「待つっす」


「待つか?」


「はい」


 頷く。


「整えて」


 牧場を見る。


 土を見る。


 仲間を見る。


「来た時、全部返すっす」


 沈黙。


 そして――


「いいねぇ」


 マルタが笑う。


「その顔」


 ハナが頷く。


「揺れてない」


 グレインが言う。


「それなら、勝てる」


 風が吹く。


 冷たい。


 でも――


 消えない。


 ここにある。


 俺たちは。


 完全に孤立した。


 でも――


 終わってない。

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