24話 正義はどちらにある
24話:正義は、どちらにある
――最初は、小さな噂だった。
「……なんか変っすね」
俺は、街から戻った商人の話を聞いていた。
「変って?」
グレインが聞く。
「空気っす」
「空気?」
「悪いっす」
短く言う。
その一言で、全員が理解した。
「……来たな」
マルタが笑う。
「今度は“別のやり方”か」
「っすね」
頷く。
でも――
想像より、早かった。
◇
――翌日。
「……なんだこれ」
俺は、掲示板を見て呟いた。
紙が貼られている。
大きく。
目立つように。
『危険な牧場に注意』
「……は?」
近づく。
読む。
『未登録の農地開発』
『違法な魔物利用』
『市場破壊行為』
全部、書かれている。
しかも――
「……名前、出てるっすね」
『ペーター牧場』
はっきりと。
隠しもせず。
「……徹底してるな」
グレインが呟く。
「公式だ」
「公式?」
「ギルド名義だ」
最悪だ。
「……これ、やばいっすね」
「やばいな」
マルタが笑う。
「面白くなってきた」
「笑えないっす」
素直に言う。
その時。
「おい」
声をかけられた。
振り向く。
人。
数人。
そして――
目が違う。
「お前、あの牧場のやつだな」
「……そうっすけど」
「ふざけるな!」
怒号。
「うちの商売、めちゃくちゃだ!」
「責任取れ!」
囲まれる。
「……っ」
理解する。
これが――
“評価反転”。
「……どうする」
マルタが小さく聞く。
「やるか?」
「……ダメっす」
首を振る。
「ここでやったら、終わりっす」
正義は、向こうにある。
今は。
「……帰るっす」
静かに言う。
視線を受けながら。
背中に、罵声を受けながら。
そのまま――
離れる。
◇
――牧場。
「……やばいっすね」
戻って、すぐ言った。
「想像以上っす」
「どうだった?」
ハナが聞く。
「敵っす」
短く言う。
「全部」
沈黙。
「……そうか」
グレインが頷く。
「来たな、“世論戦”」
「世論戦?」
「正義の形を作る戦いだ」
なるほど。
「今回は、向こうが正義っすね」
「そうだ」
即答だった。
「ルールも、名分も、全部あっちだ」
「……っすね」
歯を食いしばる。
でも――
「だからって、引くのか?」
マルタが言う。
「引かないっす」
即答だった。
「でも、殴らないっす」
「めんどくせぇな」
「そうっすね」
苦笑する。
でも。
「ここでやったら、終わりっす」
はっきり言う。
ハナが、静かに言う。
「……じゃあ、どうする?」
沈黙。
考える。
そして――
「見せるっす」
「何をだ?」
「本当っす」
シンプルに言う。
「本当?」
「はい」
頷く。
「俺たちが何やってるか」
牧場を見る。
「全部」
グレインが、少しだけ笑う。
「……なるほど」
「正面突破か」
「っす」
隠さない。
誤魔化さない。
「でも」
マルタが言う。
「時間がかかるぞ」
「わかってるっす」
「その間に潰されるかもしれねぇ」
「……っすね」
でも。
「やるしかないっす」
それしかない。
その時。
『……減ってる』
魔物が言う。
「何がっすか?」
『人』
周囲を見る。
確かに。
少ない。
来ていた商人も、ほとんどいない。
「……止められてるっすね」
「完全に孤立だ」
グレインが言う。
ぞくり、とした。
でも――
「いいっす」
俺は、前を見る。
「やるっす」
静かに言う。
マルタが笑う。
「好きだねぇ」
ハナが頷く。
「支えるよ」
グレインが言う。
「流れは作る」
俺は、息を吸う。
「回すっす」
風が吹く。
でも、冷たい。
今までと違う。
敵は、力じゃない。
“世界”だ。




