23話 静けさの中で
23話:静けさの中で
――驚くほど、何も来なかった。
「……静かっすね」
俺は、牧場の端で呟いた。
風は穏やか。
魔物たちも落ち着いている。
あの大規模戦から三日。
襲撃は――
一度もない。
「不気味だな」
グレインが言う。
「っすね」
頷く。
普通なら、もっと来る。
圧をかけてくる。
でも――
来ない。
「……溜めてるな」
マルタが笑う。
「デカいのを」
「っすね」
その通りだ。
だからこそ――
「今のうちっす」
俺は、前を見る。
「全部、整える」
◇
「……いい土だね」
ハナが、静かに言う。
広がった大地。
どこまでも続く農地。
「安定してる」
「問題ないっすか?」
「うん」
頷く。
「でも」
一拍置く。
「負荷は増えてる」
「負荷?」
「広すぎる」
なるほど。
「支えきれるっすか?」
「できる」
即答だった。
「ただし」
少しだけ、目を細める。
「集中が必要」
つまり――
「戦いながらは厳しいっすね」
「うん」
頷く。
これが、一つの制約。
覚えておく必要がある。
◇
「流通は?」
俺が聞く。
グレインが、肩をすくめる。
「完全に止められてる」
「やっぱりっすか」
「街に出た分も、回収されてる」
「……徹底してるっすね」
「本気だな」
頷く。
「価格を壊す気だ」
「どうするっすか」
「動かない」
即答だった。
「今はな」
「いいんすか?」
「いい」
目を細める。
「向こうが溜めてるなら、こっちも溜める」
なるほど。
「準備っすね」
「そうだ」
◇
「……暇っすね」
思わず呟く。
「久々だな」
マルタが笑う。
「戦わねぇ日が続くのは」
「っすね」
少しだけ、息を吐く。
でも――
「落ち着かないっす」
「だろうな」
「来るの、わかってるんで」
「それが普通だ」
マルタが言う。
「来る前に、折れるやつも多い」
「……」
「でもお前は」
ちらりと見る。
「折れてねぇ」
「折れないっす」
即答だった。
理由は簡単だ。
「守るもん、あるんで」
牧場を見る。
魔物を見る。
そして――
二人を見る。
マルタが、少しだけ笑った。
「いい顔になったな」
「っすか?」
「最初と全然違う」
自覚はない。
でも――
たぶん、そうなんだろう。
◇
――夜。
「……見てるっすね」
俺は、空を見ながら呟いた。
「見てるな」
グレインが頷く。
「複数だ」
「どれくらいっすか」
「全部だ」
短く言う。
「貴族、ギルド、商人連合」
「……全部っすね」
「全部だ」
完全に。
観察されている。
「……いいっす」
俺は、笑った。
「見せるっす」
「何をだ?」
「全部っす」
その言葉に。
ハナが、静かに言う。
「じゃあ、もっと整える」
マルタが笑う。
「来たら全部止める」
グレインが言う。
「流れも、こっちで作る」
俺は、頷く。
「回すっす」
風が吹く。
静かな夜。
でも――
確実に、動いている。
見えないところで。
全部が。
「……来るっすね」
小さく呟く。
その声に。
誰も、否定しなかった。
そして――
遠くの空で。
小さく、光が走った。
合図のように。
戦いの、始まりの。




