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追放された無能農家、魔物と“理の農業”を始めたら世界の流通を支配してしまった件  作者: 慈架太子


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21話 一人で立つ

21話:一人で立つということ


 ――やることは、決まっていた。


「……行ってくるっす」


 朝。


 牧場の入口で、俺は言った。


「一人でか?」


 マルタが眉をひそめる。


「はい」


 頷く。


「流通、詰まってるんで」


 グレインが頷く。


「街を見てくるのか」


「っす」


 止められている理由。


 圧の正体。


 それを――


 直接、見に行く。


「危ねぇぞ」


 マルタが言う。


「わかってるっす」


「なら、あたしも行く」


「いや」


 首を振る。


「一人でいいっす」


「なんでだ」


 少しだけ、考えて。


 そして――


「俺がやらないと、意味ないんで」


 はっきり言う。


 沈黙。


 ハナが、ぽつりと呟く。


「……大丈夫?」


「たぶん」


 苦笑する。


「でも」


 少しだけ、笑う。


「やってみるっす」


 マルタが、しばらく見て。


 そして――


「……死ぬなよ」


「死なないっす」


 軽く手を振る。


 そして――


 牧場を出た。


 ◇


 ――街。


「……違うっすね」


 空気が違う。


 重い。


 そして――


 止まっている。


「ミルクは?」


「入ってねぇよ!」


「なんでだ!」


 怒号。


 不満。


 混乱。


 でも――


 どこか、抑えられている。


「……制御されてる」


 そう思った瞬間。


「おい」


 声をかけられた。


 振り向く。


 男が二人。


 普通の格好。


 でも――


 目が違う。


「初めて見る顔だな」


「旅人っす」


「そうか」


 笑う。


「なら、教えてやる」


 一歩、近づく。


「ここは今、“特別管理区域”だ」


「……特別?」


「そうだ」


 低く言う。


「勝手な商売はできない」


 なるほど。


「……ギルドっすか?」


「さあな」


 はぐらかす。


 でも、答えは同じだ。


「で?」


 男が笑う。


「何しに来た?」


「見に来ただけっす」


「そうか」


 その瞬間。


 空気が変わる。


「なら――」


 男の目が、細くなる。


「帰れ」


 ぞくり、とした。


 圧。


 明らかに――


 “排除”。


「……嫌っすね」


 静かに言う。


「なんだと?」


「見て帰るっす」


 一歩前に出る。


 その瞬間。


 ――ドン。


 衝撃。


「っ!?」


 体が、吹き飛ぶ。


 地面に叩きつけられる。


「……がっ」


 息が詰まる。


「言っただろ」


 男が、近づく。


「帰れって」


 強い。


 明らかに。


 今までの連中とは違う。


「……っ」


 立ち上がる。


 でも――


 違う。


 ここには、いない。


 マルタも。

 ハナも。

 魔物も。


「……一人っすね」


 ぽつりと呟く。


 その瞬間。


 理解した。


 今まで。


 どれだけ“守られていたか”。


「……いい経験だ」


 男が言う。


「ここで終わるならな」


 もう一人が、後ろに回る。


 挟まれた。


「……どうする」


 男が笑う。


「戦うか?」


 俺は、息を整える。


 考える。


 戦えない。


 勝てない。


 なら――


「……使うっす」


 小さく呟く。


「何をだ?」


「全部っす」


 目を閉じる。


 繋ぐ。


 遠くへ。


 牧場へ。


 魔物へ。


 土へ。


「……届くか」


 わからない。


 でも――


 やるしかない。


『……ペーター?』


 声。


 届いた。


「……借りるっす」


『……遠い』


「わかってるっす」


 でも。


「いけるっす」


 目を開ける。


「終わりっすね」


「あ?」


 その瞬間。


 ――ざわり。


 空気が揺れる。


「なに……?」


 男たちが、振り向く。


 地面。


 わずかに、動いている。


「……ここまで届くのか」


 自分でも、驚いた。


 完全じゃない。


 でも――


 十分だ。


「動くな」


 静かに言う。


 足元が、沈む。


「っ!?」


「なんだこれ!?」


 完全じゃない。


 でも、止まる。


 一瞬だけ。


 その隙で――


「……逃げるっす」


 走る。


 一気に。


 路地へ。


 曲がる。


 消える。


「……はぁ、はぁ」


 息が荒い。


 体が重い。


「……無理っすね」


 壁にもたれる。


 一人じゃ、勝てない。


 はっきりした。


 でも――


「……わかったっす」


 小さく笑う。


「俺の役割」


 戦うことじゃない。


 繋ぐことだ。


 そのためには――


「……戻るっす」


 顔を上げる。


 牧場へ。


 仲間の元へ。


 走り出す。


 その背中を。


 遠くから、誰かが見ていた。


「……面白い」


 小さく呟く。


「繋ぐ力、か」


 その目は――


 獲物を見る目だった。

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