20話 ぶつかって、噛み合う
20話:ぶつかって、噛み合う
――空気が、重い。
「……っす」
言葉が、出ない。
あの男が去ってから。
誰も、軽口を叩かなくなった。
魔物たちも、どこか落ち着かない。
牧場全体が――
“揺れている”。
「……弱いな」
ぽつりと、マルタが言った。
その一言で。
空気が、止まる。
「……何がっすか」
俺は、ゆっくりと聞いた。
「全部だ」
即答だった。
「連携も、判断も、甘い」
「……」
「さっきの見ただろ」
腕を組む。
「あれ、あたしが出てれば終わってた」
沈黙。
確かに――
そうかもしれない。
「……でも」
言いかけて。
止まる。
マルタが、続ける。
「なんで出なかった?」
真っ直ぐ、こっちを見る。
「お前が止めたからだろ」
正論だ。
でも――
「……試したかったっす」
正直に言う。
「どこまでやれるか」
「で?」
「……足りなかったっす」
認める。
悔しいけど。
事実だ。
「なら最初からあたしを使え」
即答だった。
「勝てる手があるのに使わねぇのは、ただの甘さだ」
その言葉が、刺さる。
「……違うっす」
気づけば、言い返していた。
「違う?」
「はい」
マルタを見る。
「それじゃ、意味ないっす」
「何がだ」
「全部っす」
はっきり言う。
「俺たち三人でやってるんで」
沈黙。
「一人で勝っても」
続ける。
「意味ないっす」
空気が、張り詰める。
「……甘いな」
マルタが言う。
「勝てばいいんだよ」
「違うっす」
即答した。
「続けるんす」
言い切る。
「そのために、噛み合わせる必要がある」
その言葉に。
マルタの目が、少しだけ変わる。
「……なるほどな」
でも。
「時間がねぇ」
即座に返す。
「次は集団で来るんだぞ」
「だからっす」
一歩前に出る。
「今、ズレてるの直すっす」
沈黙。
その時。
「……どっちも正しいよ」
ハナが、静かに言った。
土に触れながら。
「どっちも?」
「うん」
顔を上げる。
「マルタは“今勝つ”」
次に、俺を見る。
「ペーターは“続けて勝つ”」
少しだけ微笑む。
「どっちも必要」
その一言で。
空気が、少しだけ緩む。
「……じゃあ、どうする」
マルタが聞く。
ハナは、少しだけ考えて。
そして――
「役割、はっきりさせる」
静かに言う。
「役割?」
「うん」
指を立てる。
「マルタは“止める”」
「止める?」
「敵を、完全に」
次に、俺を見る。
「ペーターは“回す”」
「回す?」
「全体」
そして――
「私は“支える”」
土を軽く叩く。
「全部を」
沈黙。
シンプルすぎる。
でも――
「……いいっすね」
俺は頷いた。
「わかりやすいっす」
「だな」
マルタも笑う。
「それなら文句ねぇ」
「じゃあ」
ハナが言う。
「試すよ」
その瞬間。
『来る』
灰狼が言う。
全員が、顔を上げる。
「……早いっすね」
でも。
今度は――
「やるっす」
迷いはない。
「役割通りに」
マルタが笑う。
「いいねぇ」
拳を鳴らす。
「久々に、ちゃんと暴れるか」
ハナが、目を閉じる。
「整える」
土が、静かに応える。
俺は、前に出る。
「……回すっす」
意識を繋ぐ。
魔物たちと。
全体を。
『……いける』
その瞬間。
全部が噛み合った。
動きが変わる。
速さじゃない。
“精度”だ。
「来るぞ!」
グレインが叫ぶ。
敵が現れる。
数十。
前回より多い。
でも――
「止める」
マルタが、一歩出る。
その瞬間。
空気が変わる。
“壁”ができる。
完全に。
「……通さねぇ」
拳一つで。
前線が止まる。
「回す」
俺が言う。
魔物たちが動く。
迷いなく。
無駄なく。
「支える」
ハナが言う。
地面が応える。
崩れない。
揺れない。
そして――
数分後。
「……終わりっす」
静かに言った。
敵は、全員倒れている。
誰も突破していない。
完璧な――
連携。
「……いいじゃねぇか」
マルタが笑う。
「今のは完璧だ」
「っすね」
俺も笑う。
ハナが、小さく頷く。
「揃ったね」
その一言で。
全部、繋がった。
さっきまでのズレが。
嘘みたいに。
「……いけるっす」
俺は、前を見る。
「次、来ても」
マルタが笑う。
「来させろ」
ハナが言う。
「大丈夫」
風が吹く。
牧場が揺れる。
でも――
もう、ブレない。
俺たちは。




