17話 足りないから欲しくなる
17話:足りないから、欲しくなる
――農業ギルドが去った、その夜。
「……どうするっすか」
俺は、焚き火の前で聞いた。
静かな夜。
でも、空気は重い。
「来るぞ」
グレインが言う。
「今度は“正式”に」
「止められるんすか?」
「止められない」
即答だった。
「だが――」
にやりと笑う。
「遅らせることはできる」
「遅らせる?」
「市場を握る」
その一言で。
空気が、変わる。
「……どうやって」
「簡単だ」
指を立てる。
「供給を操作する」
◇
翌朝。
「今日から、売り方変えるっす」
俺は、商人たちに告げた。
「またか」
「今度は何だ?」
ざわめきが起きる。
「量、減らすっす」
一瞬で、静まる。
「……は?」
「供給、半分にするっす」
「正気か!?」
「需要が増えてるのに!?」
当然の反応だ。
でも――
「だからっす」
はっきり言う。
「足りない方が、強いんで」
沈黙。
グレインが、前に出る。
「説明しよう」
商人たちを見る。
「今、ミルクは“話題”だ」
「知ってる」
「街中が騒いでる」
「だからこそだ」
指を立てる。
「ここで大量に流せば、どうなる?」
「……値段が下がる」
「正解だ」
頷く。
「価値が崩れる」
「でも売れるだろ!」
「短期的にはな」
グレインは笑う。
「だが長期では、潰れる」
空気が、少し変わる。
「逆に」
もう一本指を立てる。
「足りなければ?」
「……欲しくなる」
「そうだ」
頷く。
「並ぶ。競う。奪い合う」
静かに言う。
「そして、値段は上がる」
商人たちの目が、変わる。
「……なるほど」
「だから」
俺が続ける。
「半分にするっす」
「……」
沈黙。
そして――
「いい」
一人が頷く。
「乗る」
「俺もだ」
「面白い」
次々と同意が出る。
逆に。
「ついていけん!」
「そんな不安定な商売は無理だ!」
離れる者もいる。
「いいっす」
止めない。
「選ぶんで」
その一言で。
完全に、流れが決まった。
◇
――その日の夕方。
「……やばいっすね」
俺は、街から戻った商人の話を聞いていた。
「完全に奪い合いだ」
「価格は?」
「上がってる」
にやりと笑う。
「金貨一枚じゃ足りない」
「……は?」
「二枚出すやつもいる」
空気が、変わる。
「……崩れてるな」
グレインが言う。
「いい意味で」
「これで」
ハナが、静かに言う。
「もっと欲しくなる」
「っすね」
頷く。
完全に回り始めている。
「で、ギルドは?」
マルタが聞く。
「動いてる」
グレインが答える。
「価格を抑えようとしてる」
「どうやって?」
「他の商品を安くする」
「……意味あるんすか?」
「ない」
即答だった。
「代替にならない」
ミルクは、別物だ。
もう。
「だから――」
グレインが笑う。
「焦る」
その時だった。
遠くから、馬の音。
まただ。
「……来たっすね」
目を細める。
前回より、速い。
そして――
多い。
「ギルドか?」
「いや」
グレインが首を振る。
「もっと面倒だ」
「何っすか?」
「商人連合だ」
ぞくり、とした。
「つまり?」
「市場側が、動いた」
マルタが笑う。
「全部来るな」
「全部っすね」
俺は、前に出る。
もう、迷いはない。
「やるっす」
静かに言う。
「流れ、握るっす」
風が吹く。
ミルクが揺れる。
魔物が動く。
土が応える。
そして――
市場が、俺たち中心に回り始める。




