15話 群れは軍になる
15話:群れは、軍になる
――土地が変われば、すべてが変わる。
「……増えてるっすね」
俺は、牧場――いや、もう“領地”を見渡して呟いた。
魔物の数が、明らかに増えている。
昨日の倍。
いや、それ以上。
『ここ、いい』
『食える』
『安心』
『集まる』
声が、流れ込んでくる。
自然に。
当たり前のように。
「呼んでるな」
マルタが笑う。
「勝手に集まってきやがる」
「理想っすね」
「管理できるのか?」
グレインが聞く。
「できます」
即答だった。
むしろ――
「前より、やりやすいっす」
「なぜだ?」
「わかるんで」
魔物を見る。
動き。
状態。
役割。
全部が、自然に頭に入る。
「繋がってるっす」
「……本当に化け物だな」
グレインが呟く。
その時だった。
『……変だ』
灰狼が、低く言う。
「何がっすか?」
『体が、軽い』
「軽い?」
『強い』
その言葉に、違和感を覚える。
「……ちょっと来い」
近づく。
狼を見る。
毛並みが、違う。
艶がある。
目の色が、深い。
「……なんだこれ」
手を伸ばす。
触れる。
その瞬間。
流れ込んでくる。
力。
明らかに、昨日より――
「……強くなってる」
『ああ』
狼が頷く。
『食って、寝て、起きたらこうなってた』
「……自然進化?」
「違うね」
ハナが言う。
土に触れながら。
「土地の影響だよ」
「土地?」
「うん」
軽く叩く。
「ここ、今は“濃い”から」
「濃い……?」
「力が」
シンプルに言う。
「全部に回ってる」
ぞくり、とした。
「つまり――」
グレインが言う。
「ここにいるだけで、強くなると?」
「そういうこと」
ハナが頷く。
沈黙。
そして――
「ははっ!」
マルタが笑った。
「最高じゃねぇか!」
「やばいっすね」
俺も笑う。
その時。
『来るぞ』
別の魔物が言う。
「何がっすか?」
『あいつ』
視線の先。
森の奥。
大きな影が動く。
ゆっくりと。
でも――
重い。
「……でかいっすね」
「でかいな」
マルタが目を細める。
現れたのは。
巨大な猪型の魔物。
明らかに、普通じゃない。
「……ボス級だ」
グレインが呟く。
「なんでこんなのが」
『匂いだ』
灰狼が言う。
『ここ、強い』
なるほど。
強い場所には、強い奴が来る。
「どうする?」
マルタが笑う。
「やるか?」
その瞬間。
魔物たちが、ざわつく。
『俺がやる』
『いや俺だ』
『戦う』
空気が変わる。
戦意。
明らかに、以前と違う。
「……いいっすね」
俺は、笑った。
「任せるっす」
「いいのか?」
「はい」
頷く。
「試したいんで」
どこまでやれるか。
この“群れ”が。
その瞬間。
猪が、突進してきた。
地面を砕きながら。
「来るぞ!」
グレインが叫ぶ。
でも――
「動くな」
俺は言った。
静かに。
『了解』
魔物たちが、応える。
そして。
動く。
狼が、左右から回り込む。
鳥が、上から視界を遮る。
地面が、わずかに盛り上がる。
足を取る。
猪が、バランスを崩す。
「今だ」
俺が言う。
その一言で――
全員が動いた。
同時に。
無駄なく。
狼が、喉元へ。
別の個体が、足を削る。
上から、衝撃。
――ドン。
数秒。
本当に、それだけだった。
猪は、倒れた。
動かない。
沈黙。
「……え?」
グレインが呆然とする。
「終わった……?」
「終わったっす」
普通に言う。
「……早すぎるだろ」
「連携っすね」
シンプルに答える。
でも、それだけじゃない。
わかる。
全員が。
強くなってる。
「……軍だな」
グレインが、ぽつりと呟く。
「これはもう、“群れ”じゃない」
マルタが笑う。
「だな」
拳を鳴らす。
「いい戦力だ」
ハナが、土に触れる。
「まだ伸びるよ」
「まだ?」
「うん」
頷く。
「これから」
ぞくり、とした。
俺は、倒れた猪を見る。
そして――
周囲の魔物を見る。
全員が、こっちを見ている。
待っている。
「……いいっすね」
俺は、ゆっくりと言った。
「もっと強くなるっす」
『おおおお!!』
歓声が上がる。
地面が震える。
空気が、変わる。
これはもう――
ただの牧場じゃない。
そして。
ただの農家でもない。
「……やばいな」
グレインが、苦笑する。
「本当に、国になるぞ」
「まだっす」
俺は、首を振る。
「これからっす」
風が吹く。
魔物が動く。
土が応える。
そして――
“守る力”が、完成した。




