14話 大地覚醒
14話:大地が目を覚ます
――貴族が去った後。
「……静かっすね」
俺は、ぽつりと呟いた。
さっきまでの空気が嘘みたいに、牧場は落ち着いている。
でも――
何かが変わった。
確実に。
「来るな」
グレインが言う。
「本格的に」
「っすね」
頷く。
あれは、ただの“交渉”じゃない。
確認だ。
価値と、危険度の。
「で?」
マルタが腕を組む。
「どうすんだ?」
「どうするも何も」
ミルクを見る。
「作るっす」
「それだけか?」
「それだけっす」
シンプルに言う。
「量、増やす」
その一言で。
空気が、少し変わる。
「……できるのか?」
グレインが聞く。
「今の供給でも十分異常だぞ」
「足りないっす」
即答した。
「足りない?」
「はい」
振り返る。
牧場を見る。
「今のままだと、奪われるっす」
少なすぎる。
だから価値が上がる。
だから狙われる。
「じゃあ?」
「増やす」
単純な答え。
「供給で押す」
沈黙。
そして――
「面白い」
グレインが笑った。
「だが、それができればな」
「できますよ」
横から声がした。
ハナだ。
土に触れたまま、こちらを見ている。
「……ハナ?」
「できる」
もう一度言う。
静かに。
でも――
確信を持って。
「ただし」
一拍置く。
「ちょっと荒くなるよ」
「荒く?」
「広げるから」
ぞくり、とした。
「どれくらいっすか?」
「全部」
即答だった。
「……全部?」
「この辺り一帯」
地面を軽く叩く。
「全部、変える」
沈黙。
マルタが、にやりと笑った。
「いいねぇ」
「やるか?」
「やるっす」
即答した。
迷いはない。
「お願いします」
ハナは、小さく頷いた。
「じゃあ――」
ゆっくりと、立ち上がる。
そして。
牧場の中心へ歩いていく。
「……離れて」
短く言う。
俺たちは、少し距離を取る。
魔物たちも、自然と下がる。
空気が、変わる。
風が止まる。
音が消える。
世界が――
“静かになる”。
「……聞くよ」
ハナが、目を閉じた。
その瞬間。
どくん、と。
地面が、脈打った。
「っ……!」
思わず息を呑む。
昨日とは違う。
規模が違う。
「……深いね」
ハナが呟く。
「いい土地だ」
その声に、何かが応えた。
ざわり、と。
地面が揺れる。
いや――
動いている。
ゆっくりと。
でも、確実に。
「な、なんだこれ……」
グレインが後ずさる。
地面が、盛り上がる。
うねる。
広がる。
ひび割れが消え、色が変わる。
茶色から、黒へ。
浅い土から、深い土へ。
「……生きてる」
思わず呟く。
その通りだった。
これは、ただの土じゃない。
“生きている”。
「……起きろ」
ハナが、静かに言う。
その一言で――
世界が、変わった。
――ドン。
地面が、大きく揺れる。
「うおっ!?」
バランスを崩す。
でも、倒れない。
足元が、支えている。
土が、支えている。
そのまま――
広がる。
牧場の外へ。
さらに外へ。
森を飲み込み。
荒れ地を覆い。
地平線まで――
広がっていく。
「……嘘だろ」
グレインが呟く。
「こんな……」
あり得ない。
規模だ。
マルタが、笑う。
「ははっ!」
「やべぇな、これ!」
魔物たちが、ざわめく。
『あったかい』
『広い』
『住める』
『増える』
声が、変わる。
興奮と、安心。
そして――
喜び。
ハナが、ゆっくりと目を開けた。
「……できた」
軽く言う。
まるで、大したことじゃないみたいに。
「……これで」
土を見下ろす。
「好きなだけ作れる」
沈黙。
完全な沈黙。
「……すげぇ」
それしか言えなかった。
牧場が、広がっている。
いや――
“領地”だ。
もう。
「……これ」
グレインが言う。
「国レベルだぞ」
「そうっすね」
素直に頷く。
「でも」
ミルクを見る。
「まだ足りないっす」
マルタが笑う。
「欲張りだな」
「必要なんで」
シンプルに言う。
「来るっすよ」
遠くを見る。
「絶対に」
ハナが、土に触れる。
「うん」
頷く。
「もう、見られてる」
ぞくり、とした。
でも――
「いいっす」
俺は、笑った。
少しだけ。
「見せるっす」
この力を。
この牧場を。
「……やるぞ」
マルタが拳を鳴らす。
「やるっす」
頷く。
風が吹く。
新しい土の匂いが広がる。
魔物たちが、走り出す。
新しい土地へ。
新しい仕事へ。
そして――
牧場は、もう止まらない。




