10話 ここは、俺たちの場所だ
10話:ここは、俺たちの場所だ
――その日の空気は、明らかに違っていた。
「……来るっすね」
俺は、牧場の入口を見ながら呟いた。
昨日の“話し合い”で終わるはずがない。
むしろ――
ここからが本番だ。
「何人だ?」
マルタが肩を鳴らす。
「……二十以上」
「増えたな」
「はい」
しかも――
「武器、持ってるっす」
完全に、威圧する気だ。
「……やるか?」
マルタが笑う。
「やらないっす」
即答した。
「今日は、戦わないっす」
「じゃあどうする?」
深呼吸する。
そして――
「話すっす」
◇
やがて、村人たちが現れた。
昨日より多い。
そして――
険しい。
完全に“敵の顔”だった。
「ペーター!」
村長が前に出る。
「話は決まったか」
「決まったっす」
俺は、一歩前に出る。
後ろでは、魔物たちが静かに見ている。
「どうする?」
「納めるなら、まだ間に合う」
村長が言う。
「村に従え。そうすれば守ってやる」
……ああ。
そういうことか。
「守る、っすか」
「そうだ」
胸を張る。
「外から狙われる。お前たちだけでは危険だ」
正しい。
たぶん、それは本音だ。
でも――
「いらないっす」
はっきり言う。
「なに?」
「守りは、足りてるんで」
軽く手を上げる。
それだけで――
魔物たちが、一斉に動いた。
前に出る。
整列する。
静かに。
でも――
圧倒的に。
「……っ」
村人たちが息を呑む。
昨日とは違う。
数が違う。
統率が違う。
“格”が違う。
「……見たっすよね」
静かに言う。
「これが、俺たちっす」
沈黙。
誰も、何も言えない。
「……それでも」
村長が、絞り出すように言う。
「村に背くのか」
その言葉に。
俺は、少しだけ考えた。
村。
育った場所。
助けてもらったこともある。
でも――
「背くんじゃないっす」
ゆっくりと、言う。
「離れるだけっす」
顔を上げる。
「ここは、俺たちの場所なんで」
その一言で。
空気が、切り替わる。
「……なら」
村長の目が、冷える。
「村の庇護は受けられないぞ」
「大丈夫っす」
「何かあっても、助けん」
「大丈夫っす」
同じ言葉を、繰り返す。
迷いはない。
「……後悔するぞ」
「しないっす」
即答だった。
沈黙。
長い沈黙。
そして――
「……そうか」
村長が、静かに言う。
「ならば――」
一歩、下がる。
「勝手にしろ」
それだけだった。
怒鳴りもしない。
脅しもしない。
ただ――
線を引いた。
完全に。
村人たちも、何も言わない。
ただ、去っていく。
誰一人、振り返らずに。
その背中を、俺は見ていた。
胸の奥が、少しだけ痛い。
でも――
「……これでいいっす」
小さく呟く。
「いいのか?」
マルタが聞く。
「はい」
頷く。
「これで、自由っす」
ハナが、土に触れる。
「……静かになった」
「土が?」
「うん」
少しだけ、微笑む。
「迷いが消えた」
その言葉に。
俺も、少しだけ笑った。
「……そうっすね」
振り返る。
牧場を見る。
広がる土地。
動く魔物。
そして――
二人。
「やるっすよ」
まっすぐ言う。
「ここ、もっと広げるっす」
「いいねぇ」
マルタが笑う。
「好きなだけやれ」
「土も、応えるよ」
ハナが頷く。
その時だった。
グレインが、ぽつりと言った。
「……言ったな」
「何をっすか?」
「独立だ」
静かに言う。
「それはつまり――」
目を細める。
「“国の外に出た”のと同じだ」
「……は?」
「村という庇護を捨てた」
ゆっくりと続ける。
「つまり、お前たちは今――」
一拍置いて。
「完全な“独立勢力”だ」
その言葉に。
少しだけ、空気が変わる。
「……大げさじゃないっすか?」
「いや」
首を振る。
「むしろ小さいくらいだ」
牧場を見る。
「これだけの資源を持っていて、どこにも属さない」
静かに言う。
「それは、奪われるか、取り込まれるか、どちらかだ」
ぞくり、とした。
でも――
「……どっちも嫌っすね」
正直に言う。
「なら――」
グレインが、少しだけ笑った。
「“そうならない力”を持つしかない」
マルタが拳を鳴らす。
「あるだろ?」
ハナが、土に触れる。
「あるね」
俺は、牧場を見る。
魔物を見る。
ミルクを見る。
そして――
「作るっす」
静かに言う。
「もっと、強く」
風が吹く。
柵が鳴る。
魔物たちが動く。
土が、応える。
――この日。
俺たちは、村を離れた。
そして同時に。
世界の中で、“一つの勢力”になった。




