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番狂いの王を殺し  作者: 石動なつめ


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第五話


 王とイリアの結婚式は恙なく行われた。

 といっても盛大なものではない。王宮内のチャペルに一部の人間を呼んで披露するくらいの小さなものだ。

 式には正装のリブロや彼の弟妹たち、そして他の妃たちの姿もあった。イリアを見て優しく微笑んでくれた彼らの一部は、この夜に起こるであろう出来事を知っていても、それを表情や態度に一切出すことはなかった。さすが、とイリアは感心する。もしも動揺一つでもすれば、何かあると勘づかれてしまうので、いつもと変わらない彼らの態度はありがたかった。


 誓いの言葉と祝福を受けて、イリアは王の妃となった。結婚式がどんなものかはイリアはリアンヌの話でしか知らないが、存外、大したことがないなと思ったのは、相手に好意の欠片も抱いていなかったからだろう。ただ、一つだけ心を動かされたとすれば、ステンドグラスから射し込む光が美しかったことくらいだろうか。


「疲れたかい?」


 式の後、パーティーまでのほんの少しの休憩時間に、イリアが椅子に座ってぼんやりと窓の景色を眺めていたら、来賓との会話を終えた王が戻ってきた。イリアの隣に座り、顔を覗き込んでくる。「少しだけ」とイリアが返すと、王は「そうか。すまなかったね、無理をさせて」と言った。


「パーティーでは客の相手は私がする。だから其方は、座ってゆっくり食事を楽しむといい」

「いえ、そういうわけには……」


 さすがにまずいだろうとイリアは頭を振る。曲がりなりにも、今日は王とイリアの結婚式なのだ。それなのに王だけを働かせて、自分だけ座って何もしないというのは気が引ける。周りの評判なんてイリアにはどうでもいいが、あまりに無作法でいても変に勘繰られる可能性がある。今日一日だけは、どうしても変に目立つわけにはいかないのだ。

 そう考えて、イリアが「お供します」と伝えれば、王はどこか懐かしげに目を細めた。


「其方はやはり真面目だな。あの頃と何も変わらない」

「失礼を承知で申し上げますが、陛下と私は先日が初対面かと……」

「ああ、そうだね。其方とはそうだ。けれど……」


 王はそこまで言って「いや、何でもない」と小さく笑って首を横に振った。


「其方に会えて良かった。私はずっと、其方を探していたのだ」

「まぁ、陛下ったら。皆様にもそう言っているんでしょう?」


 愛おしそうに自分を見つめてくる王に、イリアは上品に笑ってそう返す。ずいぶん安っぽい口説き文句だ。これならば場末の酒場の酔っ払いの方がましな台詞を吐いている。


「そう言われると弱ってしまうな……」


 王は眉尻を下げて困ったように微笑む。図星だったらしい。例え事実だったとしても、そんなことはないくらい言えば良いものを、妙に正直な男だ。だが、とりあえずここは一度謝った方が良いだろう。そう思ってイリアは、憂い顔を浮かべて頭を下げる。


「……申し訳ありません。少し妬いてしまって、意地悪なことを言いました」

「そうなのかい? 其方が嫉妬してくれるとは思わなかったな……」


 心にもないイリアの言い訳に、王は頬を赤らめた。本当に、どうしようもないくらい正直な男である。どうにも調子が狂う。何だか毒気を抜かれそうになって、これでは駄目だとイリアは気を引き締めた。

 そうしていると「イリア」と呼ばれた。


「何でしょう?」

「すまないね。私のような人間に、好かれてしまって。其方で最後だ」


 すると王からそう謝罪された。一瞬、何を言われたのか分からなかった。途中までは、自嘲の言葉としてならば分かる。しかし、一番最後はどういう意味なのだろうか。


 ――まさか、勘づかれた?


 イリアはひやりとしたが、すぐに、それにしては言葉が変だなと思った。

 もしもイリアが王を殺そうとしているのを察したならば「其方で」ではなく「其方が」となるのではないだろうか。


 ――どう返すのが正解だ?


 悩み、イリアが言葉に詰まっていると、王はくすりと微笑(わら)った。 


「ああ、不安にさせたかな。他意はない。言葉のままの意味だよ」

「言葉のまま……でございますか?」

「そうだとも。其方と出会えたから、もう、彼女を探す必要がなくなったのだ」


 言って、王はイリアの手を取って、自身の両手でそっと包む。


「出会ってくれてありがとう、イリア。これでもう、私は十分だ」

「…………いえ」


 困惑しながらも、イリアはやっとそれだけ返した。

 どうしてお礼を言われたのかは分からない。

 ただ、王の顔はとても幸せそうで、それが何故か妙に印象的だった。


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